児童が現代的な諸課題を乗り越えるためには,多様な価値観を認めつつ,目的に合ったよりよい選択肢や納得解を協働的・対話的に探究し,意思決定していく資質・能力を育むことが重要です。 そこで,これからの算数教育では,数学の世界だけではなく現実の世界からも問題を発見し,目的をもって数学的に問題を解決することができる力を育むことが大切になります。これは,あらかじめ用意されている唯一解を求めるだけでなく,納得解を探究する力を育むことを意味します。納得解の探究には,問題場面に対して,各々の児童が抱く価値観を明確にしたうえで,ある事柄がどうあるべきか,どうしたいかに関わる価値命題を探究し,合意形成を図り,意思決定することが求められます。 ここで意思決定を意図した実践事例を紹介します。 本事例は,実際に,第6学年の児童が社会科見学に行く最高裁判所までの経路を考えた実践です。第1時 問題場面の理解と目的設定,及び考え得る経路と情報の整理 まず,小学校の最寄り駅の西日暮里駅から最高裁判所までの経路を考えるという問題場面の理解と目的設定から始めました。配布した資料(図1※)は,「最高裁判所の写真」と「最高裁判所付近の地図」,「路線図」です。 児童は話し合う中で,「どのような行き方がよいか」という問題意識をもち,西日暮里駅から最高裁判所までの様々な経路を考え始めました。さらに,児童が経路を決定するために何を重視するか,すなわち,価値観を表出させるために,「よい行き方とは何か」と問うと,「料金が安い」「移動時間が短い」「楽しめる景観がある」「徒歩時間(道のり)が短く疲れない」「混雑していない」といった効率性や安全性の価値観が出されました。 その後,料金や移動時間等,考察に必要な情報をもっとほしいという声があがったので,インターネットで収集した料金や時間に関する情報を提供しました。すると,児童は先に述べたような価値観をもって,データをもとに,各自,よりよい経路を考察していきました。第1時の終末で児童がワークシートに書いたのは,次の5つの経路でした。第2時 選択肢(価値命題)の創出 導入では,児童から要望があった「駅別の一日平均乗降者数」や「首都圏の鉄道混雑率」,「大手町駅構内立体図」,「各最寄り駅から最高裁判所までの徒歩経路図」,「平日の永田町4番出口写真」を新たな資料として配付しました。そして,これらの資料と第1時の資料にある数値情報から,5つの経路のうち,どの経路がよいかをグループごとに考察しました。すると,児童は各経路のメリットやデメリットを考えることをとおして,それぞれの経路で重視されている価値観を明確にし,問題場面に内在する数値情報を用いて次のような観点の指標を作成していきました。図1 配布した資料意思決定を意図した授業算数教科の視点東京都荒川区立第一日暮里小学校主幹教諭 石いし川かわ 大だい輔すけ現代的な諸課題解決に必要な資質・能力育成のための実践~算数科における意思決定を意図した授業~実践事例 第6学年「最高裁判所へ行こう」※図1はイメージです。「最高裁判所の写真」及び「最高裁判所付近の地図」:google mapより引用 /「路線図」:東京都交通局より引用経路ア 西日暮里−大手町−永田町−最高裁判所経路イ 西日暮里−大手町−半蔵門−最高裁判所経路ウ 西日暮里−国会議事堂前−最高裁判所経路エ 西日暮里−駒込−永田町−最高裁判所経路オ 西日暮里−池袋−永田町−最高裁判所・安い行き方(運賃を優先)・早い行き方(移動時間を優先)・疲れない行き方(徒歩時間を優先)・リスクが少ない行き方(乗換回数を優先)・迷惑がかからない行き方(乗降者数を優先)・景色を楽しめる行き方(徒歩時の景観を優先)14現代的な教育課題とこれからの授業デザインー教科の視点 算数特集
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