教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (小学校版)
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はるえ先生プロフィール金子晴恵先生。2002年より学習支援教室「アンダンテ西荻教育研究所」を主宰。発達障害などの子どもたちの学習指導,親や教師の相談等に携わる。著者に『はるえ先生とドクターMの苦手攻略大作戦』(教育出版 2010年)など。はるえ先生のお悩み相談AA 発達障害の診断のある児童ですが,偏食が激しく,給食で食べられない物が多くあります。保護者によると食物アレルギーではないとのこと。食育で好き嫌いせずバランスよく食べる大切さを学ぶ機会もあります。少しでも頑張って食べるよう促したいのですが…。 まず,明確にしておかなければならないのは,発達障害のお子さんの偏食の多くは感覚過敏という特性が背景にあるということです。味覚,視覚,嗅覚,触覚などが他の人よりも過剰に感じてしまうことで,ある種の物(たとえば匂いの強いもの,つぶつぶした見た目や食感など)が食べられないのです。また,こだわりという特性から偏食につながっているケースもあります。想像力や思考の柔軟性の弱さから,「どんな味かわからない」という不安や「まずいに違いない」という思い込みが強くなってしまうのです。 これは「虫がどうしてもダメ」とか「ガラスを引っ掻く音が苦手」のような,生理的なものです。本人が食べられないものを頑張れと強要するのは絶対NGです。トラウマになって,給食や学校自体に恐怖心を覚えさせることになりかねません。学級目標に完食を掲げる類のことも,同調圧力になりますのでやめてください。 食育は,「偏食は×」ではなく,アレルギーや宗教上の理由などと同様,理解と配慮が必要であることを他の児童が知る機会になるとよいですね。また,「トマトは食べられなくてもトマトジュースやスープなら飲める」といったように,食感や見た目を変える工夫や,トマトが食べられなくても同じ栄養を補える食材をみんなで考えることなども楽しそうです。そうしたポジティブな経験は,偏食のある児童が食の幅を広げるきっかけになるかもしれません。 作業系の活動が苦手な児童がいます。理科の実験,図工や家庭科は鬼門です。説明した手順を間違えたり,口酸っぱく伝えた注意事項を忘れたりするため,失敗ややり直しになってしまい,かわいそうです。有効な支援や授業の中でできる工夫はありますか? うちの夫くんが,まさにその子と同じ! レシピを見て料理しても完成品はまるで別物になるし,組み立て家具がなぜか出来上がらない……。そんな彼を観察すると,レシピや手順書の読み方が私とは全然違うのです。私は番号順に工程を確認していくのに対し,彼はざっと見て気になったところだけに反応し,こまごましたことはスルー,さらには,たまたま目に入ったもの(冷蔵庫の野菜や調味料)や思いついたこと(「せや,こうしたらええんちゃうん?」)を勝手に加えてしまう。彼は頭の中で情報を「並べていく」のではなく,「ぶっこんでかき混ぜる」感じ。 順を追っていく認知処理プロセスを継次処理,全体から細部へというプロセスを同時処理といい,人はこれらを状況に応じて使い分けています。どちらを得意とするかは個人差があります。彼の場合,デフォルトが同時処理モードで,継次処理的な情報にもモードを切り替えないまま対処してしまい,前述のようなことが起きがちです。 このタイプの子には,作業に入る直前に「1番めにやることは何?2番めに何をするの?」と確認の質問をし,手順を意識させるとよいでしょう。ここで大切なのは,「直前に」というところで,そのつど継次処理スイッチを入れる手伝いをしてあげるのです。チェックリストを示して準備物や注意点を確認させるのも有効ですよ。QQ27はるえ先生のお悩み相談連載

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