教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.2 (小学校版)
22/36

「子どもが主役」の授業デザイン教科の視点 道徳特集の視点教科 令和元年当時の勤務校における特別支援学級は、知的障害1クラス、情緒障害1クラスで、それぞれのクラスに担任と介助員が一人ずつの構成でした。その当時の実践を振り返ってご紹介します。 自閉症・情緒障害特別支援学級(以下、本学級)では、1年生・2年生・5年生・6年生の子ども計5名が在籍していました。 本実践は、各学年の各教科・領域の目標と、道徳科の指導を整理して実施したものです。本学級では、知的障害特別支援学級や特別支援学校で実施されている生活単元学習や日常生活の指導を、教育課程に位置づけて実施することができないため、各教科・領域の目標を達成させつつ、それぞれの子どもたちにそった目標や課題を個別に設定し、かつ一人の担任が1時間の中で同時に指導する必要がありました。 とかく、自閉情緒学級での授業実践の話になると、「席についていなかったら(どうしよう)」「パニックになったら(どうしよう)」「暴れ出したら(どうしよう)」という「どうしよう」にあらかじめ対応しようという授業づくりを始めることがあります。しかし、授業は本来子どものためにあるはずです。「どうしよう」という事態が起きることも道徳の学習だと捉えてみてはどうでしょう。本実践では、子どもたちの潜在能力を信じて活動の目的と流れをはっきりさせることと、子どもたちの身近なものから考えやすいように、楽しめるものに、ということを重視しました。 道徳科の専門的な話に立ち入ってみますと、かつて行われた文部科学省の有識者会議「道徳教育の充実に関する懇談会」の報告書の中で、道徳教育について次のように示されています。  人間の在り方に関する根源的な理解を深めながら、社会性や規範意識、善悪を判断する力、思いやりや弱者へのいたわりなどの豊かな心を育むことが求められている。 これをふまえて、提示する題材や発問は、他者と関わりながら豊かな心を育む道徳学習になるようにということを意識しました。 以下は、NHK for School の動画を使った実践です。毎回の授業で映像ばかり使うわけにもいきませんが、映像にはメリットがあります。話の内容を文字から理解させるよりもわかりやすく、中心発問について考える時間が十分に取れます。 これは特別支援学級の事情ですが、多学年にわたる道徳の授業は、集団学習といういわば常に多面的・多角的見地からの意見交流ができる点で、特別支援学級ならではの利点として捉えることができます。一方で、特定の学年の教材を扱うと、どうしてもある学年の子どもの目標は達成したけれど、それ以外の子どもの課題設定には無理が生じてしまうという難点もあります。教科書を使った道徳の授業は、わたりの方法を使った指導(子どもが一人で学習する時間と教師が関わる時間とを設定して、子どもの間を教師が行ったり来たりする指導)が考えられますが、これは別の機会に紹介できたらと思います。ための哲学」NHK for School) この映像資料は、一つの事柄をテーマとして設定し、その事柄やテーマを深く考えるもので、「Qくん」という少年が主人公になっているシリーズ物です。 今回の話は、おもちゃをかたづけているQくんが、「まったく、めんどうくさいなあ。なんで毎日かたづけなきゃいけないんだよ。どうせまた明日使うんだからそのままでいいじゃん」と、お母さんと決めたかたづけのルールに不満げな様子を示すところから始まります。「ルール、ルールってうるさい! なんでルールなんてあるのさ!」とQくんが叫んだところで、「ルールって、本当に必要なのでしょうか?」という問いの設定へといたり、考える時間となります。22ー道徳科を特別支援学級で実践する子ども主体の学びを起こすために重視したこと授業の実際と子どもたちの様子(1)教材概要教材:『ルールって本当に必要?』(「Q〜こどもの特別支援学級での子ども主体の道徳学習静岡県富士市立広ひろ見み小学校教諭 髙こう口ぐち 涼りょう 道徳

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る