「子どもが主役」の授業デザイン提言特集ー3 学習指導要領や令和の答申は、持続可能な社会の創り手(担い手)の育成を目ざしています。その実現のため、育てるべき資質・能力を明確にして、主体的・対話的で深い学びを位置づけること、感性や思いやり、優しさなどの人間性を重視することが大切だといわれています。また、SDGsを活用することも推奨されています。 いずれも、持続可能な社会の創り手の育成には欠かせないアプローチだと思います。筆者は、それらの土台として、子どもとヒト・コト・モノの関係を再構成すること、つまり、子どもが自分と対象とつながりを見いだし、関わり方を理解し、共感する経験を積ませることが大切だと考えます。子どもとヒト・コト・モノとの関係を再構成することと、他者に共感したり、他者への優しさや思いやりを育んだりすることが重要です。 これは、映画『踊る大捜査線THE MOVIEー湾岸署史上最悪の3日間!ー』(1998年)のクライマックスシーンで、主人公が発したセリフです。このセリフは、映画のヒットとともに当時の流行語になりました。このとき、私は中学校の社会科教員でした。このセリフと主人公の怒りを込めた表情がなぜか私の心をつかみ、日々の教育活動を捉え直す契機となりました。教育の世界では、教室はまさに「現場」です。教員にとっての教室(現場)は、子どもと出会い、学び合い、喜びと感動があり、時には葛藤の場にもなります。教室には日々ドラマが生まれます。私は何よりもこうした教室が大好きでした。 大学教員になってからも、可能な限り国内外の学校現場に足を運び、子どもたちが学ぶ姿や先生方の真摯な教育活動から学ばせていただいています。時代や社会、国や地域、学校種が異なっていても、子どもと教師が紡ぎ出す教育実践(実践の知)はかけがえのないものです。 皆さんも、初心にかえって、日々の教室、子どもたちとの対話から始めませんか。 ここでは、私が中学校の教員時代に出会った二人の生徒の事例を紹介します。それぞれの事例にどのような教育課題が内包され、どのような教育実践上のてだてを講じるべきかを考えてみましょう。 ある冬の日、学年レクリエーションで雪合戦を行ったときのことです。私も生徒と一緒に雪合戦をしていました。すると、突然Aさんが私に向かってと叫びながら、私に向かって雪玉を投げてきました。 雪合戦のあと、教務室に戻り、最近のAさんの成績やノート、レポートなどを改めて読み返しました。ノートは板書の内容や課題等はきちんと記述されていました。また、提出されたレポートも、参考書や事典等を引用しながら、しっかりとまとめていました。本人なりに時間をかけて勉強してきた様子がうかがえました。ところが、定期テストの歴史的分野(近世・江戸時代)の点数は他の教科と比べて芳しくありませんでした。要因の一つとして、歴史的事象相互の因果関係の把握が十分でなく、一つ一つの歴史的事象が構造化されず、ばらばらな状態であることがうかがえました。つまり、本人と歴史(学ぶ対象:ヒト・コト・モノ)との関係が断絶している状態でした。ここから、「なんで(歴史なんて)勉強する必要があるのですか?」というAさ「先生、歴史なんて大っ嫌い!なんで昔のことを勉強する必要があるの!?」「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」1. 持続可能な社会の創り手の育成と SDGs2. 授業改善のヒントは教室にある!「なんで勉強するのですか? 歴史なんて大っ嫌い!」3. 中学校で出会った子どもたち… 子どもたちの思いや願い、 心からの声に耳を傾けて
元のページ ../index.html#3