教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.2 (小学校版)
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「子どもが主役」の授業デザイン提言特集ー4んの切実な問いが立ち上がることになります。この年、Aさんの声に応えるため、次の明治時代の単元では、一工夫しました。明治時代と自分との関係を深く考えさせる学習を設定しました。具体的には、近代と地域(上越市)の関係、自分と地域の関係、自分と近代の東アジアの関係を考える場を、継続的に単元に設定し、日々の授業でも、具体的に自分との関係を問い直す学習の場を設定しました。 結果的に、Aさんは、少しずつ現在の自分の視点から過去に問いかける意味や意義を見いだしていき、歴史と現在の関係性に着目できるようになっていきました。 ある年のこと。修学旅行先を沖縄に選定し、生徒には平和や環境について学び、沖縄に住む人々の心に迫ってもらいたいと考えました。そこで、そうした探究学習を促すため「おきなわの心-14歳のオキナワ-」と題する総合学習を構想しました。ところが、Bさんは、と申し出てきました。 多くの生徒は、心はすでに沖縄に飛び、大戦中の沖縄戦や現在の基地問題、環境問題等についてテーマを設定しようとしていたので、私たちはBさんの申し出に少々戸惑いました。私たちは、Bさんへの対応について協議しました。理由は「沖縄の物語や伝説」では共通テーマに迫れないし、何よりも沖縄に行く意味が無いのではないかと考えたからです。一方で、無理やりテーマを変えるように説得することはBさんの現状からは難しいと判断しました。結果的に、私たちはBさんの思いや願いを尊重し、寄り添うことから始めることにしました。 すると、ある日、Bさんは次のように感想文を記述しました。 この感想文をもとに、Bさんの話を聞くことにしました。Bさんは、小学生のとき、クラスの人間関係に悩んだことがありました。クラスでは、いじめや友人関係について話し合ったが、うまくいかなかったそうです。そのときから、いじめや平和について話し合ったり、考えたりすることが嫌になり、耳をふさいできたと語ってくれました。その後、学級担任との日々の交流や励まし、クラスの仲間との学び合い、総合学習の担当教師との相談等から、少しずつ自分と沖縄(ヒト・コト・モノ)との関係を捉え直していく姿が確認されました。 その後、Bさんはクラスの仲間と一緒に沖縄への修学旅行に出かけ、探究学習を深めました。帰校後、レポート作成において、次の感想文を書いています。 また、平和の礎の前で、大地讃頌を合唱したときの感想を次のように記述しました。 このBさんの事例は、持続可能な社会の創り手の育成について、重要な教育実践上のヒントを抽出することができます。幾つかを紹介します。・学級担任と教師集団がBさん本人の経験に根ざした鋭敏な感性を尊重したこと。・Bさんに仲間との協働を促すことと、本人の学びに向かう力を尊重したこと。 つまり、クラスの環境を整え、Bさんが本来もっ「先生、平和を学ぶって大嫌い。平和ってドロドロして嫌です。沖縄の伝説や物語だったらいいです。本当は沖縄に行くのも嫌です。私は沖縄の物語や伝説について調べたいです。」「私は沖縄は嫌いです。戦争でたくさんの人が犠牲になったし、私は戦争や争いごとが嫌いだからです。私は小学校時代からそうしたごたごたから逃げてきました。」「修学旅行に行く前からずっと行きたくないと考えていたガマ見学の日。…奥へ進む。息苦しい。暑い。何も見えない。暗い…。光のありがたさ、平和のありがたさを思い知らされた。」「平和はとても大切。命はすごく尊いもの。分かっていることを改めて実感させられた。平和だね。幸せだよ。こんなにも晴れているし、暖かいし。小さな幸せだけど、石碑に名前が刻まれている人々にもこの幸せを伝えたい。平和だってこと、伝えたい。守りたい、大切な大切な平和を。」「沖縄は嫌だ、 平和学習なんて嫌だ!」

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