「子どもが主役」の授業デザイン 2教科の視点 道徳の視点教科特集 「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編」の「第1章 総説」には、「発達の段階に応じ、答えが一つではない道徳的な課題を一人一人の児童が自分自身の問題と捉え、向き合う『考える道徳』、『議論する道徳』へと転換を図るものである」と書かれており、道徳的な課題を自分自身の問題として捉えることの重要性が示されています。このことは、これまで道徳授業の課題として指摘され続けてきたことでもあります。 そのためには、子どもが自分自身の課題として捉え、答えが一つではない課題に向き合い、道徳的な価値観をつくる授業の具現を目ざす必要があると考えます。そこで、子どもの体験から道徳授業をつくることを提案します。子どもの体験から道徳授業をつくることによって、子どもは自らの体験において矛盾や葛藤を感じていることについて仲間と議論しながら、解決や解消をしていこうとします。そうすることで、実感をもって課題を見つめ、本音で語り合いながら、自らの道徳的な価値観をつくっていくことができます。 子どもは、学校生活において、道徳的な課題に日々出会っています。総合的な学習の時間で取り組んでいる活動や、国語や社会などの教科の活動、学級や全校で取り組む特別活動や学校行事、縦割り班活動や休み時間、清掃などで、学校生活のさまざまな場面で疑問を感じたり、仲間との考えの違いに出会ったり、葛藤したりしています。このような子どもの体験をもとにして、そこに含まれる道徳的な課題について考えていくことで、子どもは自ら考え、道徳的な価値観をつくっていきます。『受けつがれてきた命―屋久島三代杉―』(教育出版、4年生)内容項目 自然愛護教材22(1)教材概要体験からつくる道徳体験からつくる道徳授業の実践例(2)ねらい 自然を大切にするということについて話し合うことをとおして、自然に手を加えることの是非について考えたり、手を加えることが全てよくないわけではないのではないかと考えたりしながら、自然を大切にすることについて認識を深めていく。(3)活動設定の意図 4年生の子どもは、「創造活動」(総合的な学習の時間に位置づく教育活動)において、「自然公園」を対象として、人と自然がともに生きるには、どのように関わっていくことがよいのかということについて見つめています。 子どもは、1学期の活動で、地域の自然公園を繰り返し訪れ、自然公園で生き物を捕まえたり、木を切って基地を作ったり、植物を摘んで押し花にしたりしてきました。自然公園で楽しみながら、そこにある自然を守りたいという思いを強くしました。そして、よりよい自然公園であるためには、そこにある自然を大切にする必要があると考えました。一方で、どうすることが自然を大切にすることなのかということについては、一人一人の考えに違いがあり、活動の中で意見がぶつかる場面が見られました。 そこで、『受けつがれてきた命―屋久島三代杉―』を読むことで、1学期の活動で自らが体験してきたことを思い起こし、自然を大切にするということについて議論していけるのではないかと考えました。そして、その議論の過程において、道徳的な価値観が現れ、つくり変わっていくのではないかと考えたのです。(4)授業の実際●「私たちも切ってるじゃん」 教材文を読んだ子どもは、二代めの杉が人の手によって切られてしまったことに着目しました。そして、木を切ることの是非を話し合いました。「木も生きているから、切ってしまうのは悲しい」「切った後も大切に使えばいいんじゃない?」と、対立する意見が出されました。すると、一人の子どもが「私たちも、自然公園の木をたくさん切ってきたじゃない」と話しました。この発言によって、木ー子どもの体験に基づいた道徳授業上越教育大学附属小学校教諭 倉くら井い 伸しん太た郎ろう 道徳
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