教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.3 (小学校版)
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はるえ先生のお悩み相談連載 紙の教科書とノートでできることは非常に限られ、それゆえ学習に制約が生じる子たちが少なからずいます。一方、パソコンやタブレットなら、例えば読むことが困難な子には音声読み上げ、書字が困難な子にはキーボード入力など、さまざまな機能で支援の幅を広げられます。GIGAスクール構想で全員が端末を持つ時代になって、ようやく「一人だけ特別扱い」という壁が取り払われるのですから、そりゃあ、私も期待しています。 ただ、ICTは学習の幅だけでなく、逸脱の幅も広げてしまうのですね。児童が学習に参加できていない時、これまではせいぜい、教科書を開かないとか、ノートに落書きをする程度だったのが、今やタブレットひとつで無限に遊べてしまいますものね。注意のそれやすい子は、目の前の誘惑に勝てずかたっぱしからアプリを触ってみるでしょうし、言語情報の理解が苦手な子は先生の説明を聞いて操作するより自分で試行錯誤を始めるかもしれません。 児童1人1台端末を持つということは、ノートがパソコンやタブレットに単純に置きかわっただけ、ではないのですよね。まるでドラえもんの四次元ポケットを持ったようなもの。ドラえもんは、何かとうまくいかないのび太くんを便利な道具で助けてくれるわけですが、のび太くんは好奇心や怠け心から良からぬ使い方をしてはしばしば失敗します。そこが漫画の面白さなわけですが、現実ののび太くんたちは「ひみつ道具なんか使わせない方がよい」と言われてしまいそう。 でも待ってください。GIGAスクール構想は、困った時のお助けツールとして端末を配ったわけではなかったはず。目的はご存じのとおり『子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現』です。これからの私たちの仕事は、のび太くんのような子の困りごとを便利な道具で助けることではなく、子どもたちが「どのツールをどう使えば目的を果たせるのか」を自分で判断し、使いこなせるように育てていくことなんです。 一方、特別な支援が必要になるのは提供した学習と学習者とのミスマッチが生じている時です。ICTは子どもたちが多様な学び方でゴール(学習の目的や目標)に到達するためのツールのはずなのに、なぜミスマッチが増えてしまうのでしょうか? それは多分、まだ紙媒体中心で教師があらかじめ道筋を決めて児童を導いていた頃の古い授業スタイルから抜け出せていないからではないでしょうか? それだとせっかくの多機能端末なのに学習上の「制約」は残ったまま、下手すれば制約のバリエーションは増えてしまいかねません。 でもきっと大丈夫。私が言うまでもなく、「学習目標を明確にすること」と「学習方法に多様な選択肢を示すこと」で、子どもたちは達成すべき目標のために、何をするか、どのように学びを進めるかを自らチョイスします。今後そうした学習観、授業づくりが進むにつれ、冒頭にあげたような学習へのアクセス自体が困難なケースは減り、教師の支援は、目標・目的からそれてしまっている子の軌道修正や、ツールの操作が未熟な子のサポートにしぼられてくるでしょう。GIGAスクール時代には特別支援のあり方も変わってきそうです。28 高学年担任です。これまで、支援が必要な子にICTを活用したくても、学校側の都合や本人の気持ちからかなわないことが多々ありました。そのため、GIGAスクール構想に期待していたのですが…実際に始まってみると、教師の指示を待てない子、関係のないアプリで遊ぶ子、説明したやり方がわからず止まっている子などが続出です。1人1台端末で、かえって支援の必要な子が増えたとさえ思うこの頃です…。はるえ先生プロフィール金子晴恵先生。2002年より学習支援教室「アンダンテ西荻教育研究所」を主宰。発達障害などの子どもたちの学習指導、親や教師の相談等に携わる。著書に『はるえ先生とドクターMの苦手攻略大作戦』(教育出版 2010年)など。Aはるえ先生のお悩み相談Q

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