教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 (小学校版)
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未来を拓く授業デザイン〜学びに向かう力を身につける〜教科の視点音楽ー 特集の視点教科●今回は“表現することを全て決めた後に表現する”のではなく、“その場で考えて表現する”ことに挑戦します。●打ち合わせなしで表現するのは難しいので、2つだけ話し合っても構いません。 ①どのような表現にするかについて  例:静かな山の中で雪がたくさん積もっている様子 ②自分がどんな声を出すかについて  例:低い声で「しーーーん」 授業で「じゃあ、歌ってみよう」と声をかけると、多くの子どもたちが「やった!」「こういうふうに歌ってみようよ」などと前のめりになって音楽活動に取り組む姿が見られます。しかし、「みんなで旋律(リズム)をつくろう」と声をかけると、「やったー!」という声の中で、「えー」「苦手」という声も聞こえてきます。子どもたちは、歌唱・器楽等と比べて、音楽づくり分野の学習に対して苦手意識をもっていることが伝わってきます。しかし、選択肢を与えたり、旋律・リズムをつくる部分が限られていたりすると、マイナスな声は少なくなります。子どもたちは、表現する「内容」や音楽をつくる「枠」が決まっていると安心するのでしょう。 また、「即興的に表現する」ことは、正直なところ、子どもにとっても教師にとってもハードルが高いのではないでしょうか。「何をしてよいのかわからない」「何でもよいように見えて、何でもよいわけではない」という声を聞きます。そこで、偶然生まれる雰囲気や一人一人の自由な発想を組み合わせることのおもしろさといった即興的な表現のよさに気づくことができれば、「音楽づくりって楽しい」「もっとつくってみたい」といった興味・関心をもつことにつながるでしょう。さらに、音が音楽になる過程や拍に捉われない音楽を経験することにより、表現することを楽しみ、主体的に音楽活動に取り組むことへつながると考え、実践を行いました。 5年生の学級で、令和2年度版『小学音楽 音楽のおくりもの 5』p.46に掲載している詩『ゆき(草野心平作)』を用いて、即興的に表現をしていきました。『ゆき』は、「しんしん」「ゆきふりつもる」といった言葉が繰り返される詩です。 「ゆき」に関するイメージを子どもたちに尋ねると、「激しく降っている様子」や「ふわふわと舞うように降っている様子」といった具体的なイメージを伝えてくれます。しかし、本題材で用いる『ゆき』に出てくるしんしんと降る雪は、子どもたちにとってイメージしにくいものだと考えました。それは、しんしんと降る雪を山口県では見ることができなかったり、実際には「しん」という音を聴くことはできなかったりするからです。この『ゆき』を表現して「楽しい」「おもしろい」などと思うことができるようにするためには、「音を音楽へと構成する」よりも「即興的に表現する」ことのほうが適していると考えました。 即興的な表現を行うからといって、指示を少なくして、「はい、やってみよう」だけでは、子どもたちは動き出すことができません。子どもたちが即興的な表現に対して主体的に活動するためには、一人一人の自由な発想を大切にすること、グループでイメージの共有を図ることが大切だと考えます。 まず、詩『ゆき』を音読した後に、「『ゆき』を音読して、どんなことをイメージしましたか」と尋ねました。子どもたちは、「家の中からたくさん降っている雪を見ている」「しもやけになりそうな感じ」「雪の量が多い」などと発言しました。一人一人のもつ『ゆき』の具体的なイメージが、これからの表現の材料となります。 その後、即興的な表現を行うことと、即興的な表現を行う中での条件を以下のように伝えました。 「即興的な表現=打ち合わせなしのアドリブ」と捉えがちですが、ここでは即興“的”であるため、ある程度の下準備が必要だと考えます。何もない状態で表現をスタートするよりも、この下準備をOKとすることにより、子どもたちの活動への安心感が高まります。条件を伝えると、子どもたちは「どんな感じにする?」「私は、高い声で短くしんしんと言おうと思うよ」などと一生懸命に伝え合いまし18はじめに『ゆき』を即興的に表現する子どもたちが安心して表現できるために即興的な表現を楽しむために山口大学教育学部附属山口小学校教諭 石いし田だ 千ち陽はる音楽

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