デジタル時代の学び連載図2 授業づくりの検討事項とその流れ図3 端末活用で「非同期・分散+協働」活動の促進ます。B領域のように、解が一つに定まる穴埋め問題や選択問題のような個別の知識・技能に関わる資質・能力の育成は、今後、学習動画やAIドリル等にいっそう、置き換わっていくことでしょう。実際、子どもの振り返りをみても、教師の手づくりの穴埋めプリントによってゆっくりと進む授業は、時間がもったいないという人もいます。解が一つに定まるような内容は、人間はコンピュータにかないませんから、ある意味、当然の帰結といえます。 そこで、C領域の概念的な知識や思考力、判断力、表現力等といった高次な資質・能力の育成が課題となります。しかし、過去にも重視されてきましたので、改めて1人1台端末がどのように位置づくのか検討していく必要があります。いくつかの成功事例をみると、授業観やICT活用観が結果的に変化していると思います。そこで、こうした望ましい変化を起こすための授業づくりの考え方の流れを図2、3を用いてお示しします。 まず、「1.子どもは一人一人」であるということです。これは前号でも述べました。改めて子どもは一人一人の別々の存在であることを確認します。 つまり、それは図3のような「2.複線型の授業」になることを意味します。子ども一人一人の興味や関心、能力も異なりますので、単線型の一斉授業では当然、限界があります。 これらを実現するための理論や考え方を「3.個別最適・協働的な学び、自由進度学習」というのだと思います。つまり、個別最適な学び等の実現は、その前提となる1や2への心からの理解が重要とい【参考文献】・高橋純:『学び続ける力と問題解決-シンキング・レンズ,シンキング・サイクル,そして探究へ』東洋館出版社(2022)・高橋純:「1人1台端末を活用した高次な資質・能力の育成のための授業に関する検討」日本教育工学会研究報告集(2022 巻4号 p.82〜89)えます。 その際、教師が子ども一人一人に最適な指示を与えるのは不可能といえますし、生涯にわたって能動的に学び続ける力を育む観点からも、子どもが学習過程等を「4.自己決定」できるようにしていくことが重要といえます。ここまでは1980年代には理論的な完成をみていたと思いますが、大きな普及には至っていません。やはり、ここに紙で行う限界があったのではと思います。 複線型の授業においては、いっそう、子ども一人一人の様子を把握する必要があります。あるいは、子ども自身が他者を参照して自己調整を図りながら学習を進めていくことが求められます。この際、「非同期・分散+協働」といった特徴のあるクラウドベースの「5.1人1台端末」を活用します。その際のポイントは、白紙共有、他者参照、途中参照となります。国語や社会の学習内容を直接的に学ぶために情報端末を活用するのではなく、学習のアウトプットを作成・共有する道具として1人1台端末を活用するのです。 その基盤として「6.情報活用能力」などの学習の基盤となる資質・能力が重要となります。自らの判断で問題解決活動を行い、あたりまえのように情報端末を活用できるような基礎的な資質・能力が必要となります。 他に、向上目標的な考え方、形成的な評価、一斉協働から非同期・分散的な協働の重要性など、いくつも観点はあります。また、各校の情報端末がこうした発想で整備されておらず、ルール等も旧態依然で、絵空事に感じる地域の先生も多いことでしょう。授業でICTを使えさえすれば新しいのではなく、クラウドらしい新しい使い方をしてこそ意味のある授業につながりやすくなります。 以上、紙幅の関係で詳細には説明できませんが、本稿を通して、授業をより本質的に変化させていく機会として1人1台端末があるのだと、少しでも感じるきっかけになればと要点を書き連ねました。そして、「百聞は一見にしかず」ですので、既に変化し始めている学校を視察することも重要です。そうした学校の記録を集めた本を参考文献に上げましたので、ご覧いただければと思います。25
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