教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 (小学校版)
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はるえ先生のお悩み相談連載 ご相談のお子さんは自閉症スペクトラムとのこと。このタイプの人たちは、初めての経験や慣れない環境、急な変更、予想(本人の思い込みの場合も含む)と異なる場面を苦手としていることが多く、特に低年齢のうちは大きなパニックを起こすこともあります。そこで、今回はまず、その背景について、なぞ解きを試みてみましょう。 このタイプのお子さんは先を見通すこと、すなわち想像力で次に何が起こるかを予測し、状況判断や行動決定していくことに困難を抱えています。そのため、「初めてのこと」「慣れないこと」をするというのは、たとえれば霧の中を手探りで進むようなもの。強い不安と緊張にさらされる時期は、心身ともにいっぱいいっぱいで、ささいなことに動揺するのも不思議ではありません。 新学期は担任やクラスの顔ぶれが変わる、教室が変わる、物の置き場所が変わる、ちょっとした日常の手順が変わる……と、経験でインプットされていた一連の流れや行動パターンが崩れます。運動会や発表会などの練習で予定の変更が頻発する行事前も同様です。また、校外学習など過去に経験のないイベントは、他のお子さんが感じるような「わくわく」した期待感よりも不安や緊張といったネガティブな反応が上回り、気持ちが不安定になりがちです。 環境が変化したときは、誰でも多かれ少なかれ落ち着かないものですが、とりわけこのお子さんには何倍もの負荷がかかっているのだと認識する必要があります。ですから学習面でも行動面でも、課題の量や要求水準を通常期よりぐっと下げ、無理をさせないことが大事です。 また、見落としがちなのですが、本人にとっての「いつもの時間」や「いつものルーティン」は、心のよりどころになっています。それが不意に中止や延期になると、パニックにつながりやすいことを、先生にはぜひ心に留めておいていただきたいのです。ルーティンを変えないですむ部分や安心して過ごせる時間は、可能なかぎり継続して確保できるとよいでしょう。 一方、ルーティンから外れて変化を受け入れる経験は、大事な成長の機会でもあります。前述のような特性への理解と配慮があることが前提ですが、本人のキャパシティを少しずつ広げ、挑戦を促すためのサポートも必要ですね。 支援のカギは2つ。1つは「見通しをもたせる」支援。新しいことや変更は適切なタイミングで予告する、どのような場所でどのようなことをするのかをあらかじめ見せる、予定や順序を書いて示しておく、困ったときの対処方法を話し合っておくなど、本人が事前にイメージをもちやすくし、不安の軽減につなげます。 もう1つは「スモールステップ」。特に初めてのことに関しては、細やかに段階を刻むのが有効です。例えば、最初は「見るだけ」や「一部だけやる」といった取り組み方を認める、何度か援助者と一緒にやってみてから少しずつ自分でトライする、といった配慮をすること。また、時間や回数を柔軟に調整したり、難易度を選択できるようにしたりすることで、本人に合った挑戦レベルで達成感を得やすくなり、不安の軽減につながるでしょう。 少しずつよい形で経験を積んでいけば、お子さんのストレスへの対応力も少しずつ育っていくことが期待できます。そんな成長のプロセスに伴走してあげてください。 自閉症スペクトラムの2年生男子を、昨年度から持ち上がりで担任します。ルーティンを好み、急な予定の変更にパニックを起こす子です。昨年度は、入学して1〜2か月と行事前の時期に特に調子が悪くなりました。今年度は少しでも軽減してあげたいのですが、どんな支援ができるでしょうか。29はるえ先生プロフィール金子晴恵先生。2002年より学習支援教室「アンダンテ西荻教育研究所」を主宰。発達障害などの子どもたちの学習指導、親や教師の相談等に携わる。著書に『はるえ先生とドクターMの苦手攻略大作戦』(教育出版 2010年)など。Aはるえ先生のお悩み相談Q

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