教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 (小学校版)
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未来を拓く授業デザイン〜学びに向かう力を身につける〜提言ー3特集きます。授業をしていて、子どもの意見や発言に、「おもしろいな」「なるほど、そう考えるか」と感心することも時おりあると思いますが、その瞬間、子どもたちは教師を静かに学び超えているのです。 さらに、特に「総合的な学習(探究)の時間」等においては、共同注視関係は、教室での材を介した教師と子ども、子どもどうしの間の三角形の関係性を超えて、学校外にも展開していきます。すなわち、教師とともに問いや世界と向き合い未知を探究する共同責任関係を超えて、学校外のホンモノの当事者・実践者を伴走者とする共同責任関係に展開し、子どもが教師を恒常的に「学び超え」、学校から社会へと飛び出していくわけです。以下、本気で材と向き合い没入し、授業や学校を学び超えていくような授業を創る指針をまとめます。 まず、学びの入り口において、学習対象への興味・関心を触発したり、思考する必然性を生み出したりする材選びが重要です。その際、子どもにとって身近で考えたくなるもの(具体性)であるとともに、教師がつかませたい内容や育てたい能力が育てられるもの(典型性)であることが重要になります。授業の導入に具体物で興味をひいたり、「(そんなこと考えたことなかったけど、言われてみれば)どうなるんだろう?」という気持ちを触発するような問い(例:「このボーリングの球を水に浮かべたら、浮く? 沈む?」)を投げかけたりするわけです。 ここにあげた例は、「仮説実験授業」とよばれる授業方式の教材の一つです。まず問題を投げかけ、三つの選択肢を示しつつ、子どもたちの予想を聞くと、もの(木や紙)は燃やすと軽くなるという生活経験から一般化された知識(素朴概念)に照らして、多くの子どもたちは選択肢アを選びます。選んだ理由(仮説)について集団で討論したあと、燃やしたほうが重くなって下がるという意外な実験結果が示されます。これによって、物質が酸素と結びつく化学変化である「酸化」の概念を、実感を伴って理解していくことになるわけです。 木や紙が燃える場面のほうが、子どもたちにとって身近かもしれません。また、スチールウールが激しく燃える様子は、子どもたちの興味をひくかもしれません。しかし、こうした具体性を追究するだけでは、「酸化」の概念の理解につながらないし、むしろ素朴概念を強化することになる危険性もあります。逆に、典型性を優先して、スチールウールを燃やして重くなることを演示実験するだけでは、子どもたちは思考を始めないでしょう。ものが燃えて重くなるという意外性を演出しつつ、スチールウールという典型性をもった素材と出会わせることで、子どもたちは動き出し、教えたい内容の理解にもつながるのです。 導入で触発した興味・関心や思考を持続させ、材への没入をさらに深めるには、グループ学習を促したり、クラス全体で練り上げたりする協働的な学びを組織しつつ、子どもたちの理解の隙を突き、わかったつもりをゆさぶる問いかけが重要になります。例えば、酸の性質を理解するために塩酸にアルミニウムを入れた反応を観察させるおなじみの課題でも、溶けたことを確認して満足している子どもたちに対して、さらにもう1枚アルミニウムを入れたらどうなるかと問い、予想を立てさせたうえで再度実験させてみることで、予想どおりになるかわくわくしながら反応の様子を細かく観察するようになるでしょう。(問題) スチールウールのかたまりを上皿天びんの両側にのせて、水平につり合わせます。 次に、一方のスチールウールを綿菓子のようにほぐして、ステンレス皿などの上において燃やします。そして、燃え終わったら、また上皿天びんにのせます。そのとき、上皿天びんはどうなると思いますか。(予想)ア.燃やしたほうが軽くなって上がるだろう。イ.燃やしたほうが重くなって下がるだろう。ウ.水平のままだろう。2. 学びの触発から材への没入に誘う

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