教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.5 (小学校版)
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連載デジタル時代の学び 生成AIの活用などにより学習アプリの発展が著しい。こうした最新のアプリは、現在は塾や生涯学習分野での利用が中心ですが、基本的な知識・技能の習得、そのベースとなる記憶の作業、特に自分にとって飲み込みの悪い分野、等に関しては、よいアプリを使って学ぶ時代がやってきたと実感します。アプリは自分の能力に合わせて、自分のペースで、繰り返し個別最適に学ぶことができます。私自身も毎日、苦手な英語やスポーツを学んでいますが、子どもの頃、もしアプリで学んでいれば、それらに対する苦手意識を今ほど強く感じていなかっただろうと思います。アプリは自らの向上や努力の跡が見て取れるので、飲み込みの悪さ以上に、それらが励みになり、毎日続けられます。 近い将来、アプリではできない領域のみが、教師に期待される学習指導になる可能性があります。その一つとして、「思考力、判断力、表現力等」といった高次な資質・能力の育成があげられるでしょう。  高次な資質・能力に関する指導法は重要だとしても、私自身も含めて既成概念から脱却するのは難しいものです。 「思考力はどう育成するの?」「探究ってどうやるの?」とハウツー的に指導法を学びたくなります。しかし、それは答えが一つに定まる領域の指導に慣れすぎていて、学習法も指導法も定めることができると考える既成概念に基づくのかもしれません。答えが一つに定まるということは、指導法等もスタンダードとして表しやすく、ハウツーで指導法を学ぶことができるということです。しかし、だからこそアプリに置き換わるかもしれないのです。 一方で、高次な資質・能力の育成における学習成果は、レポートや作品等であり、答えが一つに定まるものではなく、全員が同じ成果になることもありません。だから、指導法の全てをスタンダード化するのは不可能でしょう。それでも、あえてスタンダードを定めて指導することも、初期段階にはありえると思われます。しかし、例えばワークシートによる思考力育成の指導法を学び、それらを埋めるような活動を繰り返しても、同じような思考を量産するだけになる可能性があります。早々に脱却しないといけません。 つまり、高次な資質・能力の育成に関しては、答えが一つに定まらないのであるから、学習法も指導法も一つに定まることはありません。繰り返しになりますが、「複線型の授業はどう実現するのですか。」と尋ねるなど、一つの定まった指導法、一つの定まった答えがあると思うこと自体に、どこまで意味があるのかということになります。 若い教師、ベテランの教師では指導法が異なる可能性も大いにありえます。若い教師は指導が未熟かもしれませんが、その若さに子どもがついてくる。そうした一人一人の教師の特長や得意を生かした指導が求められるでしょう。子どもの学び方が個別最適であれば、教師の指導法もまた相似形であり、個別最適になることも大いにありえます。子どもも教師もコンピュータを持っているのだから、教育課程も柔軟化できます。そして、近い将来、それぞれの子どもが自分に合う教師を選ぶことだってありえます。24デジタル時代の学び高次な資質・能力の育成、および「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実東京学芸大学教授 高たか橋はし 純じゅん 博士(工学)。総合教育科学系教育学講座学校教育学分野に所属。独立行政法人教職員支援機構フェロー。教育工学、教育方法学、教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会教員養成部会臨時委員、中央教育審議会デジタル学習基盤特別委員会委員長代理、「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」座長代理、等を歴任。日本教育工学協会・会長。優れた学習アプリの台頭と、今後に求められる学習指導スタンダード化が困難な領域こそ、今後研究すべき学習指導子ども一人一人の得意、教師一人一人の得意を生かした学習指導

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