教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.5 (小学校版)
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共育のツボ 廊下を歩いている際、教室の両方の扉が開いていたならば、学級の様子がかいま見えます。電灯がついていない、ゴミ箱があふれている、聞こえてくる声、独りでいる子どもと集まって会話をしている子どもの割合などから、多くのことがわかります。廊下にランドセル収納棚が設置されている小学校もありますが、多くは教室の背面に設置されています。習字道具や絵の具、体操着も一緒に収納するため、ランドセルが床に落下することがあります。本稿は、ランドセルがいつまでも落ちている教室からかいま見えることを伝えます。 まず、子どもどうしの人間関係が見えてきます。さすがにランドセルが落ちていることに気づかない子どもは少ないでしょう。またいで通るならば、明らかに落ちていることに気づいています。クラスの友人の落とし物を拾ってあげない人間関係が構築されているわけです。やなせたかしさんが描いた「アンパンマン」は、おなかがすいた子どもにアンパンを分け与えるという物語です。物語の背後には、やなせさんの人間愛と他者への思いやりが込められています。作品を通じて、子どもたちに「助け合い」と「思いやり」を伝えることを目ざしていました。素敵なクラスは他者への思いやりにあふれています。 次に、担任の先生の姿も見えてきます。ランドセルが落ちていることに気づかないのは、授業中に最後列まで机間巡視をしていないからです。ずっと黒板前で授業をしていることが推察できます。教室左後方の子どもたちが落ち着いていないかもしれません。新任教師の頃「教師は数回に一回は教室の後ろ扉から入るとよい。後ろ姿からも子どもの考えていることは感じ取れるものだ。子ども目線で教室がどのように見えているかは、後ろ扉から入らないとわからない。」と先輩から教わりました。全国各地の先生がたのアイデアを詰め込んだ「共育のツボ」。「ともにはぐくむ」をテーマに、子どもたちとの関わり方や学級経営の工夫、先生ならではのお悩みとその解決法など、日々奮闘する先生がたの情報共有の場となるようなページをお届けします。また、ランドセルが落ちていることに気づいているにも関わらず、拾わない先生にも残念ながら出会ってきました。当人に棚へ戻すように声掛けをしたり、落ちない入れ方を教えてあげたりしてほしいです。拾ってあげないという意地悪を先生がするようでは、子どもどうしの意地悪も増えていきます。ランドセルがいつまでも教室に落ちているクラスは次第に荒れていくでしょう。「割れ窓理論」をご存じでしょうか。小さなほころびが大きな事件につながるという理論です。ニューヨーク市の元市長ジュリアーニ氏は治安を改善するために、落書きを発見ししだい、速やかな除去を命じました。同様に、落とし物が落ちているのに気づいたら、すぐに拾ってあげる。そんなお手本を先生が示してあげたら、子どもどうしでも拾い合って、お互いに感謝し合うでしょう。落とし物箱が存在しない素敵なクラスが増えることを期待しています。東京都小学校、広島大学附属三原小学校等を経て現職。小・中学校の先生がたと社会科、総合的な学習の時間、生活科の授業づくりに共に取り組んでいる。かみのゆきたか28神野 幸隆香川大学教育学部准教授「 担任時代は笑顔と笑いがあふれるクラスをめざしていました。現在は日々、児童・生徒と関わり奮闘している先生を応援しています。」ランドセルが落ちている教室からかいま見えること

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