連載はるえ先生のお悩み相談 IQが非常に高く、特定分野で抜きんでた才能をもつ「ギフテッド」の子どもや、ギフテッドでありながら発達障害の特性も合わせもつ「2E」と呼ばれる子どもの教育について、日本でも議論されるようになりました。 A君がそれに当てはまるか否かやギフテッド教育のあり方云々は、それぞれの専門のかたにお譲りするとして、ここでは通常学級の担任の先生が自分のクラスで何ができるかという観点でお答えしたいと思います。 いうまでもなく、IQが130を超える子というのはすなわち“正規分布の右端の少数者”で、以前から存在していました。しかし、教科書も授業も、“正規分布の中央の多数派”に合わせて作られてきました。となると、“少数者”は興味もひかれずレベルも合わない授業を何時間も受けなければならず、そのストレスは当然意欲の低下や強制への反発を生じさせるでしょう。それが表面化したのが離席や妨害等の行動とも捉えられます。では、A君のような子の能力を発揮できる学習環境をどのように整えてあげればよいのでしょうか。 とあるアメリカ人の知人はギフテッドでありADHDでもあるのですが、学校での経験をこう話してくれました。「ギフテッド児の特別クラスがあって週に何度か通級していたけれど、自分ともう1人しかおらず友達にもなれなかった。通常クラスの授業は周りの子と話が合わず、ずっと学校が大嫌いで荒れていた」「ある先生が担任だった1年間だけは楽しかった。そうんぬんの先生は、リーディングの授業の時は大人向けの本を読ませて課題を与えるなど、他の子とレベルが合わないことに配慮して柔軟に対応してくれた」。ちなみに、このエピソードは1970〜80年代の話。 私がアメリカの小学校を視察したのは、それから30年ほど進んだ2010年代でした。アメリカの教師たちは「学び方は一人一人違う」という認識のもと授業を構成していました。例えば、ある教室の算数の時間、「ヒントをもらいながら先生と一緒に課題を進めるグループ」と「子どもどうしで話し合いながら進めるグループ」に加え、ある子どもたちはペアで、また別の子は一人で学習し、課題が終わると発展問題に取り組んでいました。課題の進め方を一律にしないことで、能力が高い子は自分のペースで学習を進められるし、先生は「苦手な子のフォローに時間を割ける」と言っていました。そこで見た光景は、授業に生徒を合わせさせるのではなく、生徒の多様性に合わせた授業づくりへと完全に転換されたかたちでした。 かつての日本の教育現場なら「学級の一斉指導で、1人だけに特別な課題を与えるなんて無理」と言われたかもしれません。でも「普通の子たちか、特別な子か」という発想は過去のもの、今は「個別最適な学び」の時代です。従来の全員一律な学習活動から、一人一人が自分に合った学びの実現に意識をシフトすれば、A君の苦痛も解消され、問題行動の軽減につながるのではないでしょうか。293年生の担任です。A君はIQが高く、知識量や理解力、言語力が飛び抜けて優れています。授業は簡単すぎると感じているようで、いわゆる「ギフテッド」のタイプなのかもしれません。ただ、社会性や感情のコントロールは幼く、待つのが苦痛で、立ち歩いたり授業の妨げになるような行動をとり、注意されると怒って騒いだり教室を出ていったりします。どう対応したものでしょうか。はるえ先生プロフィール金子晴恵先生。2002年より学習支援教室「アンダンテ西荻教育研究所」を主宰。発達障害などの子どもたちの学習指導、親や教師の相談等に携わる。著書に『はるえ先生とドクターMの苦手攻略大作戦』(教育出版 2010年)など。Aはるえ先生のお悩み相談Q
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