教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.5 (小学校版)
3/36

特集学びをデザインすることで自分自身をデザインする3いるかだけではなく、自分という人間が誰に支えてもらっているのか、自分は誰を支えればいいのか、こういう学びが重要になってきます。世界を知ると同時に、他者を知り、他者との関係を知る。これが二つめの学びです。 最後に、そういった関係性の中で生きている自分は、いったい何を目ざして生きているのだろう。一度だけ与えられた生命をどのように使ったら、生まれてきてよかったと心底自分の人生に納得できるのか。私は何をしたがっている人間なんだろう。自分をもっと深く知りたい、これが三つめの学びとなります。 つまり世界を知る、他者を知る、自分を知る。この三つがバラバラではなくて、全部つながって一つに串刺しされているような、そういう学びを大切にしてほしい。今までの日本の教育は、世界を知ることに関してはずいぶん時間をかけてきました。しかし他者を知る、自分を知ることが連携して学ばれて弱で、日本の教育にいるかというと、そこは全く脆いちばん欠けている気がします。 多くの知識を吸収して世界について知ったとしても、その知識が自分とどう関連するか、他者との関係性がどう変わってくるかがわからないと、世界で起きている問題を自分事として考えることができない人間になってしまいます。環境問題一つ取っても、他人事にしか捉えられず「それがどうしたの?」で終わってしまうのです。 僕が子ども時代に住んでいた町では、工場から出煙で洗濯物が真っ黒になってしまうことが日常る煤的に起こっていました。仁徳天皇陵古墳のすぐ隣にある中学校に通っていたのですが、ある日、仁徳天皇陵古墳の上空に鳥たちが一斉に飛び立って、東の空に向かって飛んでいくのが見えました。天皇陵に一万羽以上は生息しているといわれていた鳥たちが、一斉に逃げていなくなってしまう瞬間をまのあたりにして、あまりにも周囲の空気が汚くなってしまったからなのではないかと思ったものです。 知識偏重の社会の中で環境に配慮せず、利益のみが追求されていった結果、かつての日本は世界から公害大国といわれるような社会になってしまったのではないでしょうか。 僕が大学に入って教育学を一生の研究テーマに選んだ理由は、テストで何点を取るかなんてことより、学校で学ぶことによって人はどのような知性を身につけていくべきかを研究したかったからです。 世界の中で、他者の中で、私が生きている。この三つを勘案しながら、自分はどういうふうに人生をデザインしていくのか、そこにもっと力を注いだ学ばいぜいびを考えていくべきです。 学校がどう変わるべきかを考えるとき、先生がたは教育課程・カリキュラムへのこだわりからいったん解放されるべきだと思います。クラス全員の学習進度を等しく合わせなければならないという固定概念を一度外して考えてみることも必要ではないでしょうか。 教育カリキュラムとは、大学でこれを学ぶならば高校ではここまで理解できていないといけない、それなら中学ではここまで理解できていないといけない……というふうに、上から下に順番に定められています。これを一般的に「系統カリキュラム」といいます。を しかし、カリキュラムという言葉は、馬車の轍意味する「currere(クレレ)」というラテン語からきており、本来は、その人がどういう道を歩んで今に至っているか、その人の「履歴」とか「経歴」という意味でした。 ジョン・デューイという教育学者は、カリキュラムのもとの意味に立ち返り、一人一人がどういう経験をして今に至っているのか、だから今どういう関心をもっているかに焦点をあて、今後の経験のための準備をすること、これがカリキュラムを作るということだと主張しました。その子の今までの人生経験の上に次の学びが蓄積されて、一人一人のカリキュラムになっていく。これを「経験カリキュラム」と呼んだのです。 今、イエナプランとかモンテッソーリとか、フレネといった新しいタイプの考え方を取り入れた学校が世界中で人気ですが、基本的にはみんな、カリキュラムは生徒が作ることになっています。子どもが喜んで通うようなおもしろい学校にするには、今まで系統カリキュラムだけでやってきた教育に、もっと経験カリキュラムを組み込んでいくことが重要です。経験カリキュラムをいろいろな科目の中に少しずつ増やして、子どもたちが自分で調べて、知的経験を豊かにすることを助けてやるのです。 一人一人がどういう経験を経てきて、今何を学びたがっているのか、そのことをしっかりとつかんで応援していくような学びの場を作る。それが学校の役割だと思います。 僕だったらアートと生活を中心にしたカリキュラムを考えますね。さらに、卒業論文ならぬ卒業料理があり、1人30個は得意料理を作れないと卒業できわだちカリキュラムも変わるべき

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る