教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.6 (小学校版)
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「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点 社会特集ーAB11(男子)(女子)戦争で悲しい心をいやすために桜を植えて、そこから桜まつりができたので、桜まつりに行くときは、犠牲者のことも考えて見たい。八重岳は、戦争のあと本部町の人々と町長が戦争に悲しんだ人々をいやすために、桜を植えた。だから、八重岳には戦争で悲しんだ人々の思いがつまっていることがわかった。図1 昭和20年4月に米軍から攻撃を受けた日本軍陣地(沖縄県公文書館所蔵)図2 本時の板書 子どもたちは、桜まつりは観光客のためではなく、沖縄戦で犠牲になった人々の「慰霊」と、これから育つ子どもたちの将来への「希望・願い」がこめられていることに気づくことができました(図2)。そして、予想とは異なる結果に落胆せず、学びを進める中で「見えなかったものが見える」ようになり、知識の更新と知的な「楽しさ」を実感できたのではないでしょうか。 このような社会科の授業を繰り返すことで、子どもたちは問いを「自分ごと」として捉え、「なぜだろう?」「考えることが楽しい」「どんな秘密(背景)があるのかな」と追究し始めるようになります。だから、社会科では「問い」が重要視されているのです。 目標を踏まえつつ、特色ある八重岳の桜の根元に視点を向けさせることで、「なぜ道沿いに桜が生えているのか」という問いを引き出しました。この問いが授業の核心部分になります。 現在の八重岳は約7000本もの桜が植えられています。しかし、なぜこんなに多くの桜を植えたのでしょうか。 1945年。八重岳は、沖縄戦の激戦地の一つでした。砲弾や爆撃によって八重岳は荒廃し(図1)、そこに住んでいた人々も大きな被害を受けました。戦後、「どうすれば多くの住民の苦しみや悲しみをいやすことができるか」と、この課題に真剣に向き合った元町長の渡久地政仁氏が、地域住民らと協力して、八重岳の入口から頂上に至る道路に桜の木を植えました。そして、年月を重ね、荒れた八重岳を桜の花によっていやしの森につくりかえていったのです。それが今の「日本一早い桜まつり」へとつながっています。 上記の記述から、予想とは異なる歴史的事実を理解したうえで、まちづくりは、①地域の人々(私たち)が主体であること②共通の想いや願いがこめられていること③協力していること、の3点に気づいたことが読み取れます。また、単元(授業)のねらいが達成できたかどうか、教師自身の指導も振り返ることができます。 本稿では、「『考えたくなる問い』を追究する子ども主体の授業」を目ざすために、社会科の授業づくりで大切にしている三つのポイントと、それらを踏まえた実践を紹介しました。「考えることが楽しい」ということは、子どもが「自分ごと」になっていると捉えられます。 そのような授業を繰り返して、子どもに「社会科はおもしろいな」「次はどうなるんだろう」「~についてもっと調べてみたいな」と思ってもらうことが、私の目ざす授業です。「考えるから楽しい」「楽しいからまた考えたい」、そんな魅力あふれる社会科の授業をこれからも子どもたちとともに創っていきたいです。図3 単元ごとに活用する評価シート【参考資料・文献】・本部町立博物館所蔵『八重岳』・堀哲夫:『新訂 一枚ポートフォリオ評価OPPA 一枚の用紙の可能性』東洋館出版社(2019)社会科の授業は「考える」から楽しい(3)振り返りの充実 問いを引き出しつつ、「自分ごと」として捉える力を培うため、OPPA論(堀、2019)をもとにした評価シートを活用しています。そのシートを通して、学びのつながりや単元のねらいが達成できたかどうかを評価しやすくなります。下記は、作成した評価シート(図3)と児童の振り返りです。

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