「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点 算数特集13 写真を集約すると、次の25種類の図形が見いだされました。 そのうち、広さを比較させるためにどれを抽出するか迷いましたが、思い切って全てを提示することにしました。数が多すぎるように感じると思いますが、自分たちが作った形が次々と並べられていく状況が、子どもたちの意欲に火をつけました。 図形の広さを比較する際、当然、「周の板の数が等しくても広さが異なる場合があるのか」ということが話題になり、子どもたちは木片を動かしながら説明していました。また、図形を広さの順に整理していく過程で、直接比較や単位正方形の数による比図1 25種類の図形(作成したワークシート)写真3 活動の様子 もちろん、問題解決を推進するためのてだては必要です。本実践においては、図形を一覧にした図1のワークシートと、ペアに1セットずつ切り取った図形を用意しました。ただ、スモールステップで授業を構想しようとしすぎると、子どもの思考を止めてしまったり意欲を削いでしまったりする場合があります。手応えのある問題を思い切って子どもたちに委ね、一緒にその解決を楽しむような教師の心構えが、時には必要なのではないかと考えています。写真4 周の長さが等しい四角形の面積を比べる様子 教師としては、後の誤りや混乱が予想されると、それを回避しようと先回りして言葉を補いたくなります。ただ、子ども自身に「はてな?」がなければ、実感を伴った「なるほど!」が生まれないということを、この実践をとおして子どもたちから学びました。そう考えると、現実や算数の世界から見いだされる「はてな?」だけでなく、「わからない」「困った」という子どもの「はてな?」が、授業においていかに重要かがわかります。教師がそれを奪ってしまうことのないよう気をつけなければなりませんし、せっかく教室に集ってともに問題解決をしているのですから、個に生まれる小さな「はてな?」にクラス全体で寄り添えたら、それだけ学びが豊かになるのではないかと思います。これが私の考える、一つの「個別最適な学び」の姿でもあります。較を自然に使い分けていました。 しかし、この段階では、広さの比較方法に関する明確なまとめや結論づけを行わず、縦4cm・横6cmの長方形と1辺が5cmの正方形を提示して、どちらが広いかを問いました。そうするとおもしろいことに、再び周りの長さで比較する子どもや、写真4のように共通でない正方形の数を数える子どもが現れ、直接比較をした結果と比べて、大きな「はてな?」が生まれました。そして、この「はてな?」が、「広さは周りの長さで比べられないことがあるんだ」「広さを数で比べるには、同じ正方形の数を数えなければいけないんだ」という、実感を伴った「なるほど!」につながったように思います。 コロナ禍を経て、教室で学ぶことの意味を何度も考えさせられました。わかりやすく、あるいは、おもしろおかしく教えてもらうなら、適した媒体はいくらでもあります。私たち教師も必要ないかもしれません。しかし、本稿で述べたように、子どもの生活に根ざした問題を設定したり、具体物を活用したり、子どもの意欲に火をつけて一緒に問題解決を楽しんだり、「わからない」や「困った」を感じ取って相互作用を促したりすることは、教室での授業だからこそできることだと考えています。そして、このような授業が、「考える時間」を楽しむ授業だといえるのではないでしょうか。子どもに委ね、一緒に楽しむ「わからない」や「困った」の価値おわりにー
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