「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点 音楽特集19・物事の中から問題を見いだし、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行し、振り返って次の問題発見・解決につなげていく過程・精査した情報を基に自分の考えを形成し、文章や発話によって表現したり、目的や場面、状況等に応じて互いの考えを適切に伝え合い、多様な考えを理解したり、集団としての考えを形成したりしていく過程・思いや考えを基に構想し、意味や価値を創造していく過程中央教育審議会、2016、p. 30 「特定の答えがない課題」および「対話的な学び」という視点からみると、左記の学び方の例(学び合う音楽)で示されている①から⑤は、教師と子どもたちがどのような合唱表現をしたいのかの理想を探求する過程と位置づけられるでしょう。 それは、教師がどのような表現をするかの完成像を子どもたちに示し、その実現に向けて指導を展開するような授業、換言すれば、あらかじめ想定されている「答え」に効率的に到達することを求めるような授業とは性質が異なるものと捉えられます。 どのような表現をしたいのか考え、試行錯誤しながら実践していくこと、すなわち、理想とする表現の探求が、音楽の授業における重要な学びのひとつになるでしょう。 さらに着目したいのは、このような営みにおいて「理想」とする表現は固定されたものではなく、暫定的なものと考えられることです。 このことについて、新学習指導要領で示された資質・能力の三つの柱に関する記述を参照しながら確認してみます。ここでは、三つの柱のうち特に「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」に着目します。中央教育審議会答申には、思考・判断・表現の過程として、以下の三つが示されています。 このことを合唱にあてはめて考えると、教師と子どもたちがどのような合唱表現をしたいのか考え、方向性を決定し、それを達成するための方法を探求し、実践を重ね、振り返ることを経て、また新たな表現の課題を見いだす展開が想定されます。それは、表現活動において「理想」を「更新」していく営みと言えるのではないでしょうか。 次に、「特定の答えがない課題」および「対話的【引用・参考文献】・中央教育審議会(2016)「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」・新実徳英監修(2020)『小学音楽 音楽のおくりもの 5』 令和2年度版、教育出版・新実徳英監修(2020)『小学音楽 音楽のおくりもの 6』 令和2年度版、教育出版【編集部注】教材「ぼくらの日々」は令和6年度版の音楽科教科書6年のp.18-19に、「世界のいろいろな声の表現や楽器のひびきを楽しもう」は同p.38-39に掲載しています。な学び」という視点から、「鑑賞」における多様な音楽の扱いについて考えてみたいと思います。 多元的な価値を認める今日の音楽教育では、多様な音楽が扱われています。例えば、5年生の音楽科教科書の40-41ページにある題材「音楽の旅」では、「世界のいろいろな声の表現や楽器のひびきを楽しもう」という学習のめあてが示されており、教材として世界のさまざまな地域の声の音楽や楽器が掲載されています。 音楽の授業では、多様な音楽を扱う中で、それぞれの音楽をつくりだした社会的・文化的背景を知ること、そしてそれぞれの音楽を形成している世界において何が大事にされているのか、その音楽に関わる作法のようなものを理解しながら、その音楽にどのような価値を見いだすのかを考えることが求められます。 その際、教師がある音楽の価値を一方通行的に教えるのではなく、子ども自身が「この音楽にはどのような価値があるのだろう」という立場から課題に取り組み、根拠をもってその音楽の意味や意義を考えることが必要となります。 自己との対話、他者との対話、音楽との対話を通して上記の答えを見いだそうとする過程の中で、自身の考えや音楽に対する価値意識を更新していくことが求められていると言えるでしょう。 「特定の答えがない課題」および「対話的な学び」を視点として、音楽の授業において「考える」とはどういうことかを検討してきました。音楽の授業において、子どもたちに何をどのように考えてほしいのかは、現在どのような教育が求められているのか、また過去の教育から何を受け継ぐべきなのかなどを検討しながら提示していく必要があると思います。理想を更新する「鑑賞」において「考える」多様な音楽との対峙の仕方おわりにー
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