「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点 道徳特集23提示し、自分との関わりの中で自己の生き方についての考えをより深めることができるようにしました。 事前のアンケートからもわかるように、授業前の児童たちは、やりたくない役割を任されたときに「やりたくない」という思いを多くもっていました。しかし、自己の生き方を見つめる際には、「めんどうくさいと思っていても、みんなが気持ちよく過ごせる学校にしたい」「プラスの気持ちでみんなのために」とワークシートに記述するなど、道徳的価値にせまる考えへの変化がみられました。●道徳的価値を深める発問 ここでは、「自己の生き方を見つめる」際には「なぜ」「どうして」などの問い返しの発問を行い、自己の生き方への考えをより深められるようにしました。めんどうでも、「みんなのことを考えると、自分もやらなくては」という意識が芽生えていることがわかります(資料5)。 ここからは、なぜやらないといけないのかを理解して、これから取り組んでいこうとする様子がうかがえます。道徳的価値を否定するように問い返すことで、行動面だけを述べていた児童が「価値理解」の力を発揮することができました。 昨年度は、「自我関与」を大切にしながら先述の4つの活動を中心に据えて実践を行いました。その中でも、「アンケートの提示」は有効であったと感じます。児童が自己をどのように見ているのか、そのことを教材とどのように結びつけるのか、それが「自我関与」へとつながると考えます。「アンケートの提示」は、導入段階だけではなく、活動の途中にも位置づけることで、児童が「自我関与」できるのです。これからの社会を生きていく児童のためにも、道徳科の学習で、児童がよりよく生きていくことができる素地を養いたいと考えています。【参考文献】・『小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』文部科学省(2018)・浅見哲也:『道徳科 授業構想グランドデザイン』明治図書出版(2021)・浅見哲也:『こだわりの道徳授業レシピ』東洋館出版社(2020)実践をとおして(1)つかむ段階(導入段階)●教材と自己をつなぐアンケートの提示 導入では、学習内容を自分のこととして考えることができるように、事前のアンケートの提示を行いました。アンケートは、委員会活動や係活動について考えさせました。アンケートの結果は、右のようになります(資料4)。 このアンケート結果から資料4 アンケート結果は、仕事にやりがいは感じるものの、自分がやりたくない役割を任されると、「やりたくない」と考える児童が多数いることがわかりました。このように、教材内容と重ねたアンケートで「自我関与」を伴って考えたことから、「人間理解」の力が発揮されたといえます。さらに、自我関与の場を設定したことで、今の自分を見つめることにつながりました。(2)つくる段階(展開前段)●立場選択の場の設定 次に、主人公の気持ちがどこで変化したのかを3つの場面から選択させ、なぜその場面を選択したのかの理由を考えさせました。3つの場面として「『でも、だれかがやらないと』と言った文男さんの言葉を聞いて」「次の日の朝、文男さんの後ろ姿を見て」「めぐみさんが、放送室で熱心に手伝いをする姿を見て」を提示し、その中から1つを選択させました。児童はこの活動を受けて、自分の選んだ立場から、「自分がやらなかったらよい劇にならない」とワークシートに記述するなど、みんなのことを考えた行動について深く考えていました。これは「人間理解」の部分であり、児童が人間的な弱さを表出しながら、自分の経験と重ねて考えることへとつながりました。 また、3つの場面の共通点を考える活動も設定しました。児童は、どの場面でも「みんなのために」や「協力して」、「他の人も劇のためにがんばっている」といった共通性があることを見つけ、道徳的価値の理解にせまることができました。さらに、他者の考えと自分の考えをまとめながら考えることで、多面的・多角的に考えることにもつながり、「他者理解」への力が発揮されました。(3)たかめる段階(展開後段)●価値交流 ここでは、「これからどんなことを大切にしていきたいですか。」と問い、「つかむ」「つくる」段階で見つめた変容前の自分と比較する場を設定しました。また、振り返る際には、事前アンケートを再度ー
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