「考える時間」を楽しむ授業デザイン連載 デジタル時代の学び特集25「考える時間」を楽しんで、自分のペースの中で最速で、教科等の学習でも探究していく。教室にいづらいと感じていた子どもも、さまざまな場所で自分のペースで学ぶ。子ども一人一人の成果物はすばらしく、従来と一線を画します。 こうした授業に取り組む先生たちがよく口にするのは、「授業の本質」の追究です。一方、伝統的な授業に取り組んできた先生がたも、「授業の本質」が重要だといいます。しかし、両者のいう授業の本質の具体的な発言を追うと、ずいぶんズレています。両者の授業は、見た目が全く異なります。 このズレは、誤解を恐れずに一言でいえば「授業の本質」と「伝統的な授業の本質」との違いなのではないかと思い始めています。 そこで、競泳に例えて考えたいと思います。現在、競泳の自由形の泳法といえば、クロールです。ところがクロールがなかった時代は、自由形といえば平泳ぎだったそうです。平泳ぎしか知らず、平泳ぎを極めれば自由形で勝てると思い込んでいれば、もっと速く泳げる泳法を開発しようとは思わないでしょう。平泳ぎを超えたければ、「平泳ぎの本質」を追いかけても不十分です。例えば、より上位の視野をもって「競泳の本質」とは何かなどと考えていく必要があります。そのうえで、研究開発していったら、結果としてクロールという泳法が生まれたのではないかと思うのです。上で挙げた例の中にある、競泳を「授業」に、平泳ぎを「伝統的な授業法」に、クロールを「新しい授業法」に置き換えて読んでみたらどうでしょうか。 授業も自由形です。「伝統的な授業法」を起点に考える必要はありません。結局、より本質を追究し、学校教育目標のような理念、個々の教師がもつ信念といった、より上位の概念を手がかりとした授業づくりが求められます。それらから「主体的・対話的で深い学び」「個別最適な学び」「協働的な学び」を解釈して、具体的な授業法につなげていく。これらの繰り返しによって、結果として平泳ぎを超えたクロールともいえる新たな授業法を手に入れたのが、先にご紹介した学校といえます。 そこでの経験を踏まえれば、理念や信念から具体的な授業法を編み出しているのですから、新しい授業法は理論の勉強もしっかりとされている先生たちがたどり着いた境地といえます。ハウツーや言い伝えを鵜呑みにはしていません。その結果、見た目は、先達から習った授業の形とはずいぶん変化してしまいます。指導案の形も大きく変わります。従来の指導案は、やはり伝統的な授業を表現することに長けていたと気づきます。諸先輩からお叱りを受けることもあります。新しい取り組みですから、理念や信念に基づいた分厚い勉強による裏づけがなければ実現できません。その際の勉強のキーワードは、資質・能力、学習課題、学習過程、見方・考え方、学習形態、個別の支援や助言法、クラウドの活用法などになるでしょう。理念や信念から新しい授業法を作り出すー
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