ー7「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点 国語特集『おおきなかぶ』と並列して掲示しておくことで、学んだことを生かして話し合いながら考える場面が、自然に増えるように工夫しています。 私は昨年(令和5年)度5年生の担任をしていました。直近では文学教材『大造じいさんとがん』の学習を行いました。教育出版の教科書では、この教材の単元のねらいは「物語のやま場を見つけ、読みを深めよう」となっています。「やま場」は「中心人物の気持ちが大きく変わる場面」だと共有しておくことで、子どもたちは自然と中心人物の気持ちの移り変わりを考えていくことになります。今回は、考えることを楽しみながらねらいに迫るために、学級の全員が話し合いに参加するてだてとして『おおきなかぶ』でも取り扱った「心情曲線」(登場人物の気持ちの変化を視覚的にわかりやすく線で表したもの)を用いました。 登場人物の気持ちがいちばん動いている場面を探すわけですから、子どもたちは自然と言葉一つ一つにこだわりをもって読むようになります。すると、初読では飛ばしてしまった言葉に立ち止まって考えられるようになります。 例えば『大造じいさんとがん』にも登場する「なつく」という言葉。自分の飼っている金魚がえさを食べることを「なつく」と考える子どももいれば、長年飼っている犬が、自分とだけお風呂に入ることを「なつく」と考える子どももいます。それぞれがわかっているつもりになっている言葉も、よく聞いてみるとそれぞれの思う定義が違っています。ここで考える時間をとり、それぞれの考える「なつく」という言葉の意味をやり取りする中で、お互いの考えが共有され、「おとりのがんはよほどのことがない限り、口笛を吹けば大造じいさんのもとへ戻ってくる」という共通認識ができていきます。 また、「心情曲線」を考えていく中で『大造じいさんとがん』という作品の特徴でもある「情景描写」も考えることができました。この言葉(情景描写)がなくても意味は通じるけど、なぜわざわざ「青くすんだ空」「空が真っ赤にもえて」という表現が出てくるのだろうと、子どもたちと考えてみま同じ「情景描写」でも、感じることはさまざまです。一見同じに見える意見の微妙な違いや、全く同じように見える意見のちょっとした重なりを価値づけることで、多様な考えを引き出していきたいと思っています。 「情景描写」という言葉だけを教えるのであれば5分もあれば十分ですし、タブレットなどを使えば定義を調べることは簡単です。しかし、思考を伴った学習用語はてだてとして生かすことができます。教師が系統性をもって授業を行うことで、国語で学んだ考える力が、次の単元の学習や、休み時間の友達との関わりにつながります。そして日常生活の中で生きたと実感したとき、子どもたちは少しずつ主体的に楽しんで考えるようになるのではないでしょうか。す。子どもたちにとって感じ方はさまざまです。「青い空」からは「清々しい」「スッキリした」「曇りのない」など、「赤い空」からは「戦いに燃えている」「やる気に満ちている」「闘争心あふれる」などといった言葉が出てきます。いずれもよい発想です。答えは一つでないとわかると、しだいに複数の意見が出てきます。そして、ある子どもが「大造じいさんの気持ちと関係があるように見える」と気がついたところで、これが「情景描写」であると新しい学習用語を伝えました。子どもたちが「登場人物」や「心情曲線」という既習のてだてを使ってじっくりと考える時間をとり思考した結果、「情景描写」という新しい学習のてだてを得ることができました。「心情曲線」を使って考える時間を作る
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