教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.7 (小学校版)
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の視点教科音楽教科の視点 私は教職に就くまで、ある劇団に所属し舞台活動を行っていました。音楽にのせて美しい日本語を届けることを大切にしていた経験から、児童に、歌をただ歌うだけではなく、言葉に秘められた祈りやメッセージを自分なりに考え、仲間と表現して聴衆に届ける楽しさを伝えたいと考えました。歌唱活動を通して表現することは、個々の感性や創造力を育む活動の一つであり、低学年〜中学年では、歌うことが楽しいと思えたり、人と歌える喜びや幸せだと感じたりする心を育てることが大切だと考えています。さらに高学年では、歌詞に実感をもって歌える表現ができるようになると、正確な音程やリズムを追求する以上に、歌唱している仲間との共感が生まれ、それが聴衆の心を動かすことになると考えます。高学年の歌唱のまとめの授業で、ある気づきがありました。楽譜のページ(横書き)を見て歌う児童、歌詞のページ(縦書き)を見て歌う児童がいることです。高学年では、歌詞の漢字が読めたり楽譜も読めたりするようになってきて、それぞれが教材を選んでいることに感心をもちました。そこから楽譜の「音楽」を表現する児童と、歌詞の「言葉」を表現する児童がいると感じました。これではたしてまとめの授業としてよいのか、と自問したことがありました。本稿では、私の経験をもとに高学年での音楽教育で「言葉」に注目し、歌詞に実感をもって歌う授業の実践、そしてその効果について紹介します。 新しい曲を譜読みするときに、範唱音源を使うときと、楽譜をピアノで一緒に読み解きながら譜読みをするときを使い分けています。これは、私が小学校中学年のときに転校して出会った先生から受けた影響が関係しています。元の学校の音楽の先生は、教科書の範唱音源を聴きながら曲を教えてくれました。一方、転校先の学校の音楽の先生は、児童と一緒にピアノで楽譜を読み解きながら譜読みをしました。転校をきっかけに異なる指導をする先生に出会って、低学年では聴18覚的に、高学年では視覚的に曲を捉える学び方で、音楽のおもしろさを実感したのです。 私が児童と取り組んでいる譜読みの手順を示します。譜読みの例(1)ヴォカリーズで旋律を譜読みする 児童は、早く歌詞と一緒に歌いたいと思いますが、まずは曲調に合う母音(a)やla, luなどを選んで、旋律を歌います。(2)自然な喋り方で歌詞を理解する 句読点や間、段落に従ってフレーズを切るのではなく(音読にはしない)、日常会話のような自然な喋り方で読むことを大切にしています。ここでは、全員が揃うことが重要ではなくて、不自然な抑揚や節ができてしまうことを避け、正しいアクセントや言葉の意味を理解しつつ読むことを大切にします。(3)言葉と旋律、伴奏を合わせてみる ここで初めて言葉と旋律、伴奏を合わせてみます。(1)、(2)のステップをしっかり通ることで言葉(日本語の正しいアクセント)や音楽(音程、リズム)、言葉のリズムの入れ方などのまちがいを大幅に減らすことができます。旋律にある作曲家の思いを、また、歌詞を読むことで作詞家の思いを感じて歌うことができます。 教育出版の6年生の音楽科教科書のp.57「すてきな友達」に取り組んだ例を示します。(1)ワークシート(資料1)を配付して、歌詞の まず、私は「自分のこれまでの体験を歌詞とリンクさせて、台本制作に取り組んでほしい」という働きかけをしました。しかし、なかなか筆が進まない児童の姿を見て、小学生の経験や体験を思い出させて言葉にするのではなく、「フィクション、空想の世界でもよい」ということに変えました。創造力豊かな子どもたちからは、大人の想像を超える作品が生まれていました。はじめに曲との出会い歌詞に実感をもって歌う授業の実践内容に合ったシナリオを創作してみる(個別活動)歌詞に実感をもって歌唱するために〜歌詞(言葉)に注目して台本をつくって演じてみよう〜慶應義塾幼稚舎音楽科教諭 飯いい泉ずみ 佳けい一いち音楽

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