連載はるえ先生のお悩み相談296年生の担任です。Kさんは整理整頓が難しく、机の中も周りもぐちゃぐちゃです。忘れ物やなくし物も多いため学習にも支障が出ますし、家庭へのお便りをきちんと保護者に渡せておらず重要な連絡が漏れることもありました。このように整理整頓や物の管理に困難が生じている子への支援のアイデアがあれば教えてください。 私も整理整頓が苦手で、これまでさまざまな片づけメソッドや整理術を試しましたが、なかなかうまくいきませんでした。これは努力ややる気だけの問題ではなく、個々人の脳の特性が背景にあり、勉強や運動と同様、苦手な人が得意な人と同じレベルでできるようにはならないのでしょう。ですから、「先生の想定する整理整頓」はいったん忘れてください。ここでは、「Kさんの学校生活や学習に支障が出ない」という水準を目ざして、考えてみたいと思います。 さて、片づけの基本は、「①モノの分類、②所定の場所を決める、③常にそこに戻す」だといわれます。シンプルですが、はたしてそんなに簡単でしょうか? 片づけができる人は、自分なりの分類基準(教科別とか、使用頻度ごととか)が頭の中にあり、片づけるべき「モノ」の属性を認識し、どこに分類されるのかを瞬時に判断します。次に、置き場所を記憶し、思い出すという処理をこなします。そして所定の場所にしまうという動作につながります。 片づけが苦手な人は、脳内ですばやく処理されるべきこれらのプロセスのどこかでつまずくことが多いです。たとえば手に取った「モノ」に注目し判断することや、場所を記憶したり思い出したりすることに困難が生じているかもしれません。とりわけプリント類は、それが何であるかを判別するのに「読む」という処理が加わるので、もし、読むことが苦手な子であれば難易度はSクラスになります。あるいは不器用なお子さんの場合、物をしまうという「動作」に手間どることも多々あります。 そこで、こうした片づけや整理整頓の複雑なプロセスにおいて、Kさんがどこでつまずいているのかを探り、そこをわかりやすく、やりやすくするという視点で支援方法を考えてみましょう。 ある中学生は、学校でルーズリーフタイプのノートの使用を認めてもらって、すごく助かったと言っていました。10教科分のノート+プリント類が1冊のバインダーに置きかわって、管理するモノが物理的に減ったからです。 他にも視覚化、すなわち目で見てパッと認識しやすくすることが有効な子もいます。例えば、保護者に渡さなければならないプリントには赤いシールを貼ってあげて、赤いクリアフォルダに挟むというシステムにすれば、色を一致させるだけになり、判別しやすくなります。 できるだけアクションを減らすことも実行機能の負担を軽減します。特に不器用な子にとっては、プリントを折りたたんだりして入れ方を工夫しないと入らない、蓋が閉めにくい、といった小さなことが意外とハードルになりますので、大きさに余裕があり開閉や出し入れが容易なフォルダやケースなどがあると助かります。 ある小学校の先生は、片づけができない子に、その子専用のカゴを用意して「自分のものは全てここに入れよう」という目標から始めました。できるようになったら、例えば【「大きいものと小さいもの」に分けて片づける→「○○関係は赤、□□関係は青」と決め、シールやクリアフォルダなどで色分けして整理する】……などスモールステップで進めていけるかもしれません。 やりやすい方法は人それぞれなので、その子の今できるレベルに合わせた目標と方法を、本人と一緒に模索することが大切ですね。はるえ先生プロフィール金子晴恵先生。2002年より学習支援教室「アンダンテ西荻教育研究所」を主宰。発達障害などの子どもたちの学習指導、親や教師の相談等に携わる。著書に『はるえ先生とドクターMの苦手攻略大作戦』(教育出版2010年)など。Aはるえ先生のお悩み相談Q
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