教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.7 (小学校版)
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提言グローバル社会において自分自身と向き合う重要性Profileウスビ・サコ (Oussouby Sacko)1966年マリ共和国生まれ。京都精華大学全学研究機構情報館長(前学長)。博士(工学)。高校卒業後、国費留学生として中国に留学。北京語言大学、南京東南大学を経て、京都大学大学院建築学専攻博士課程修了。2001年より京都精華大学教員に。2018年にアフリカ出身者として日本で初めて大学の学長に就任。「空間人類学」をテーマに、学生とともに国や地域によって異なる環境やコミュニティと空間のリアルな関係を研究。暮らしの身近な視点から、多様な価値観を認めあう社会のありかたを提唱している。バンバラ語、英語、フランス語、中国語、関西弁を操るマルチリンガル。著書に『「これからの世界」を生きる君に伝えたいこと』(大和書房 2020)、『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』(世界思想社 2021)、『不自由な社会で自由に生きる』(光文社新書 2023)他、多数。5 今の子どもたちが将来働くとき、職場で隣にいる人は外国人かもしれません。異なる環境で育った人と一緒に仕事をすることが当然の世の中になってくるでしょう。そのとき自分にとって何が武器になるかというと、文化、環境、自分自身に対する姿勢や知識であると思います。その認識が必要です。 国際的に競争していくときには、自分がこれまで何をしてきたかが問われます。それは自己責任なんです。そこでは国内的な属性や肩書きは意味をもちません。多くの日本人はフレームの中で育ち、「いい大学」に入れば賢いと思いこんでいる社会で過ごしてきました。だから、外部に出たときに「〇〇大学出身がどうしたんですか?」と言われると、大変ショックを受けてしまうんです。これまでのように、ブランドが学校名にあっても、そのカリキュラムにはないという価値観を逆転させていかなければなりません。学習者中心の教育でどのようにブランドを育てていけるのか。日本の教育にとって大事な課題です。 また、これからの社会では排他的になってはいけません。「自信のなさ」の反動が排他的につながるという話がありますが、異なる価値観をもつ他者を理解し受け入れる力を、自ら育てることができるかが非常に重要なのです。相手の全てを事前に知っておく必要はなく、「知っていく力」があるかどうか。そこに結論や正解を求めるのではなく、ちゃんとした問いを立てられる力が求められてきます。ネットやタブレットが普及して、子どもたちはいろいろな情報を自分で得ることができますが、彼らにはそれを整理するリテラシーや価値観が足りません。それらを考えるプロセスや思考法を教えていく、これは先生にしかできないことです。 日本の先生がたは本当によくやっていると思います。学校のことだけではなく、家庭や社会の分までやっている。子どもたちとじっくり接したいといちばん思っているのが先生でしょう。しかし、そのような環境や余裕を与えられていません。それでも多くの学校の先生が努力しているのは、子どもたちが大好きで、学校の未来だけではなく、日本の未来に期待をしているからだと思います。 とてもすばらしいことですが、今の教育はそうした先生ありきで成り立っている。これが持続可能かと考えると厳しいと思います。環境改善をしていかないと先生になりたい人がいなくなってしまいます。海外の状況に鑑みると、今後は、さまざまな国の人が日本で先生になる可能性も出てくるかもしれません。そうなったときに、子どもたちとのコミュニケーションの時間をもっと増やしていく必要があります。 先生の役割は、人間として子どもと話し合っていくことなんだと思います。子どもと向き合い、ヒントをさし示しつつ、コミュニケーションの時間をもってほしい。かといって、いつも全員と「平等」に関わることは不可能です。どこかのタイミングで子どもたちに任せることが必要。本来、話し合いや学び合いにファシリテーターは必要ありません。ファシリテーターを入れると、かえって方向性が固定され、自由な発言を引き出すことができない。その人がいないと何もできなくなってしまうことが多いのです。自分たちで生成していくことが大事です。そうするとグループやクラスで、ディスカッションができるようになる。最初はうまくいかなくても、何度か重ねるうちにできるようになっていきます。 日本の先生がたは業務多忙で大変な思いをしていると思いますが、問題を一人で抱え込まずに、悩みを他の先生とも共有して、助け合いながら克服していくことも大事です。先生が孤独感をもたないように、学校や社会全体で支えていくことが大切だと思います。グローバル人材の育成先生の役割

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