4ことです。お互いを好きになって、興味をもつ。僕は、いろいろな人にインタビューに行く機会があるんですが、相手に会った時に、まずは「あなたの大ファンです」と言うようにしています。その人について情報を集めていくと絶対にいいところがあるから、いろいろ調べて、その人のファンになってから会いに行くようにしているんです。こんなふうに相手にポジティブな感情をもちながら「おしゃべり」するということも一つの方法かもしれませんね。庭田 よくわかります。管理職の時に、職員の机の上に小物が置いてあると「このキャラクターが好きなんだな」とか、海の写真が飾ってあると「海が好きなんだな」というのがわかって、それをきっかけにして話しかけるようにしていました。担任の時にも、子どもの持ち物からお話のきっかけを作っていました。まずはその職員、その子に興味をもつことから始める。そうするといろいろと聞きたくなってくるんです。武田 大事なことですよね。でも、やみくもに「いいね、いいね」と褒めても伝わらないので、その人をしっかり見て、共感することがあれば、それを言葉にして伝えることが大切だと思います。庭田 気持ちが伝わった時はわかりますよね。うわべだけじゃなく、本当に気持ちが伝わることが大切なんだと思います。武田 自分の立場、ポジションから離れて、一人の人間として「私はこう思う」と言った言葉こそ、人を変えることができる。ドイツの哲学者のカントがそんな趣旨のことを言っています。僕はそれに共感していて、できるだけ「私は」という主語で語るようにしています。例えば、「私たちは、誰もが生きやすい社会にしなければなりません」と放送でいうとき、「私たち」とは誰なのかと視聴者は考えるでしょう。これを「私は」と言ったら、それは心から出てくる自分の言葉でないといけない。もちろんその言葉には責任を伴いますが、お互いに信頼し合えて「私は」という主語を気がねなく使える場をどう構築するかは、すごく大事なことだと思うんです。庭田 昭和、平成、令和と、だんだん人との関わりが少なくなるなかで、日々、言葉と向き合わざるをえないのが学校で、その中にどうやって安全な「おしゃべり空間」を作っていくのかが、これからの課題だと思っています。若い教師たちが、誰にも悩みを相談できず、悩んでいることさえ誰にも気づかれずに辞めていったり……。これをどうにかしないと学校がどんどん衰退していってしまいます。武田 学校だけじゃなく、社会全体も同じだと思います。僕は今の日本は、テクニックとして「話す」ことばかりが重要視されがちだと感じているんです。でも実は、「あなたが言いたいた。兄弟が多かったので、時には、口げんかになることもありましたが、常にどこかに言葉によるコミュニケーションがありましたし、思ったことを言える安心感がありました。だから、大学でも会社でも思ったことを言ってこられたんです。でもそんな態度は、自分で身につけたのではなく、誰かのまねだったのかもしれません。ドラマの中の人物だったかもしれないし、周りに実際にいた人だったのかもしれない。僕の態度を受け止めてくれた先輩も、生意気な後輩にどう対応すればいいか、ノウハウを知っていたんじゃないでしょうか。お互いがそういうノウハウを共有していた。社会に心理的安全性があったんです。けんかしてしょげていると先輩が肩をたたきにきてくれて、収まりがつく。社会全体が、安心・安全なんだという思いにつながっていたんだと思います。い時みたいにはできないでしょうけども、かつてはコミュニケーションにおける安心感がありましたよね。いずれにしても、なにか今の社会は言葉によるコミュニケーションに臆病になっていると感じます。僕は、自分の番組でそれを再構築したいと思っているんです。庭田 心理的安全性は、どうしたら生まれるんでしょうか。武田 やはり「信頼感」ではないでしょうか。昔は、けんかしても「ごめんね」と謝れば、「雨降って地固まる」で不快感は長く続かず、春の雪のように解けていったものですが、今はずっとわだかまりが残る。人に対する「信頼感」が少なくなっている気がします。庭田 誰かに言われた言葉に傷ついたり、逆に言葉で傷つけてしまったり。「ごめんなさい」が言えない子ども、教師が増えている気がします。教師の離職率も高い割合が続いています。このような現状をどうすればいいんでしょう。なにかご自身のお仕事で工夫されているところはありますか。武田 まずは、単純なことですが、チームみんなが仲よくなる庭田 学校も同じだと思いました。私も言いたいことを言ってしまうタイプなのですが(笑)、まちがっているときには、先輩たちが何時間かけてもディスカッションに応じてくれました。だから確かに多忙だったけど、多忙じゃなかったんです。人と「おしゃべり」して、納得して、なんとか明日もがんばれるという人がたくさんいました。武田 もちろん今は時代が変わっているので、僕らが若上手に「おしゃべり」するには自由に「おしゃべり」して よい場をどうつくるか
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