の視点教科特集学びが広がる授業デザイン教科の視点音楽ー 「音楽鑑賞」と「音楽鑑賞学習」との違いはどこにあるのでしょうか。言葉は似ていますが、意味は違いますね。「音楽鑑賞」は、音楽を自由に鑑賞することです。何かをしながらBGMとして音楽を鑑賞する場合もあるでしょうし、この曲が好きだからと何度も何度も聴き入る鑑賞もあるでしょう。しかし、「音楽鑑賞学習」となると話は変わります。学習ですから、クラス全員が<授業のねらい>を達成しなければならないことになります。つまり授業の<目的>が必要なのです。しかも、子どもがその音楽を聴いて、驚きや感動を抱くことができるような、あるいは子どもが能動的にその音楽に関わっていくことができるような授業を指向するのが望ましいと、私は思っています。 では、どのような授業をするとよいのでしょうか。事例をご紹介したいと思います。まず、どの曲を聴かせるときにも必要なことがあります。十分な「教材研究」です。 これは小学校、中学校、高校など校種を問わずすべての鑑賞授業についていえることです。その曲を鑑賞して、音楽の何を学ばせるのか、学習内容を明らかにしなければなりません。子どもに鑑賞させて「感想を書きましょう」だけでは、子どもの主観を求めるだけで、何を書いてもいいことになってしまいます。これでは、学校で授業をする意味がなくなってしまいます。 いま、「春の海」を教材として例にあげて、授業づくりについて考えてみます。教育出版の教科書「音楽のおくりもの」では、小学6年生のp.38とp.39に掲載されています。対象は小学校高学年に設定しますが、中学生でも高校生でも同じように授業が成立すると思います。 「春の海」で、子どもに何を学ばせるか。私は次のように考えています。 上のねらいには、あえて「気づく」という文末で統一しました。これは、学習者である子どもが、自ら「気づいて」いけるような授業展開を考えたいと思ってのことです。 子どもたちからは「日本!」「中国!」「韓国!」……などとアジアの国々の名前が続々と出てきます。すぐに、こう切り返します。「どうしてそのような国の名前が思い浮かんだのかな?」と。すると、「楽器の音が和風というか、アジア風だったので」とか「あの楽器って、三味線? それともお箏かな?」という発言が飛び出します。つまり、「どこの国の音楽か」を問うことで、子どもたちは楽器の音色などを頼りにして鑑賞することになるのです。「何の楽器で演奏されていますか?」と問う方法もありますが、これではあまりにも直接的であまりワクワクしないのではないでしょうか。ここで、「日本」の音楽であること、「箏と尺八」で演奏されていることを押さえます。16<授業のねらい>1箏(こと)と尺八で演奏されていることに気づく。(楽器の「音色」)2中間部では、箏と尺八が掛け合って演奏されている部分があることに気づく。3曲の冒頭や再現部の冒頭は、拍が一定ではなく揺れが生じていることに気づく。(「呼びかけとこたえ」)(「拍」、「速度」)1箏と尺八で演奏されていることに気づく。 「今から聴く音楽は、どこの国の音楽だと思いますか?」このように発問してから、中間部のはじめ30秒ほどを聴かせます。「音楽鑑賞」と「音楽鑑賞学習」との違い「春の海」(宮城道雄 作曲)の鑑賞授業授業の流れ子どもが前のめりになって参加する「音楽鑑賞」の授業デザイン筑波大学附属小学校教諭 髙たか倉くら 弘ひろ光みつ音楽
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