連載デジタル時代の学び一人1シートで進め、他の子のシートを参考にしている実験結果を持ち寄って議論するような学びこそ、子ども一人一人を主語にした個別的かつ協働的な学びの理想形といえるでしょう。もちろん、実験の一部で子どもどうしが助け合うことはあるにしても、実験の全てを協働で行うことは、本質的な意味で協働的な学びではなかったのではないか、と改めて感じます。豆電球や乾電池など、安価で揃えやすい実験道具は、これまでも子ども一人1セットが多かったことを考えると、費用の問題などで実験道具を共同で使わざるを得ない場面を「協働」として納得させていたのかもしれません。 1人1台端末の活用も、この従来的な協働の考え方に惑わされているケースが散見されます。例えば、デジタル付箋ソフトで、1枚の共同編集シートに複数人で付箋を貼りつけていく、協働で編集するといった例です。一見、協働的にみえますが、他の子に付箋を勝手に動かされたり、削除されたりして、かえって自分の考えがまとめにくくなるケースがあります。この場合、一人1シートを準備し、一人一人の領域を区切るべきでしょう。一人一人で別のシートに整理していても、共同編集機能を使えば、お互いの考えはいつでも参照できます。そこから協働的な学びは起こります。 このような学習の進め方に、違和感をもつ先生はいらっしゃるかもしれません。しかし、改めて考えてみれば、図画工作や美術で、1枚の画用紙にみんなで描いたりはしません。一人1枚の画用紙があり、それぞれが絵を描き、交流していく。それでも決して同じ絵にはならないし、お互いが高め合っていることはよくわかるはずです。 一人1シートによって、子どもは課題を自分ごととして捉え、いっそう取り組みやすくなります。場合によっては、課題が難しすぎて一人ではできないこともあるでしょう。その場合は、共同編集機能で他の子の記述を参考にさせます。それでも難しければ、最初は書き写させてもよいのです。その結果、まず自分は「何がわからないのか」が、わかるようになります。それがわかると、他の子に直接聞きに行ったり、先生に質問したりできるようになります。 協働的な学びの目的というと、「従来の学習以上の成果をあげるため」と考えがちです。もちろんそれは最終的に目ざすとしても、このように「わかる」「できる」の手前を支援するための協働的な学びもあります。表向きの「協働」や「共同編集機能」といった用語に惑わされずに、「子ども一人一人が主語」という本質から、1人1台端末の活用を身近な協働の場面にあてはめていくことが大事だと思います。 効果的なICTツールの活用法や、端末を使うと効果的な授業場面といったことをもっと知りたい方も多いと思います。しかし、本連載をそうしたハウツーから書かない理由があります。 一つは、ハウツーで書ける指導法が対象とする主な学力領域は、個別の知識・技能といった「答えが一つに定まるもの」だからです。答えが一つの領域はコンピュータが最も得意とするところで、今や教師不要のAIドリルや動画等による学習に置き換わろうとしています。今後、学校でのICT活用については、穴埋めのワークシートを共同編集するといった従来の授業の延長的なものではなく、根本的な見直しを迫られることが予想されます。 もう一つは、思考力、判断力、表現力などといった高次な資質・能力の育成にこれまで以上に取り組む必要があるということです。これらの指導法は残念ながらハウツーでは書けません。理論を学び、「子ども一人一人が主語」といった大きな考え方から、おのおのの教師の信念に基づいて、自分なりに具体的な解釈を繰り返していくことが必要です。 例えば、授業のふり返りでは、子ども一人一人がそれぞれ記述するのが一般的でしょう。「学習の最後は個に戻す」ともいわれます。こうした従来から伝わるハウツーも、「子ども一人一人が主語」という考え方で、説明可能です。ハウツーとして伝わっていることも、大きな考え方と結びつけて、自分自身で腹落ちしたうえで使っているのかが重要です。 本稿でお示ししたのは、こうした取り組み・考え方への第一歩です。遠回りのようですが、こうしたことが1人1台端末の有効な活用につながり、変化が激しく未知な状況が次々生まれる時代に、上手に対応していく方法だと思います。(写真:愛知県春日井市立高森台中学校)23自分の記述他の子の記述ハウツー的発想から脱却し、大きな考え方から発想する
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