教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 (中学校版)
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特集の視点教科未来を拓く授業デザイン〜課題に向かう力を身につける〜教科の視点数学ー  理想的な学びの姿とはどのようなものでしょうか。これは先生がたによってさまざまだと思われますが、そこに共通する姿として、教師の支援がなくとも子どもが見通しをもって粘り強く取り組み、その過程を振り返って自ら学ぶ姿があるのではないでしょうか。そのような学びを支える力は「学びに向かう力」と呼ばれ、学習指導要領の目標でも示されています。そこでは、粘り強く考える態度、数学を生活や学習に生かそうとする態度、問題解決の過程を振り返って評価・改善しようとする態度があげられています。 これらの態度は直接的な指導によって育成されるというよりは、多様な機会を設定し経験を積み重ねていくことによって、徐々に育成されていくものです。このとき、どのような機会や経験を積み重ねればよいでしょうか。粘り強く考える態度、数学を生かそうとする態度の背後には、数学のよさの実感があります。子どもはよさを実感するから、次も粘り強く考えようとしますし、数学を使おうとします。また、振り返って評価・改善する態度の背後には、よりよくしたいという気持ちがあります。簡潔に表現したい、的確に伝えたい、バラバラではなく同じものとして統合的に理解したい、能率的に処理したいという気持ちが評価・改善へと子どもを向かわせます。そのような背後にある実感や気持ちを経験する機会を設定することが、学びに向かう力の育成につながるのです。 例えば、中学校2年生の教科書に1次関数の活用場面として印刷会社を選択する問題があります。令和3年度版『中学数学2』教育出版 p.95 この問題では、お得な印刷会社を説明するために表、式、グラフのどれでも使うことができます。このような場面で、表、式、グラフのどれを使うとよいかを考えると、学びに向かう力を育成する機会となります。すなわち、どの表現を使った説明がよりよい説明となるかを考えれば、表現のよさを知り、説明を評価・改善する機会となります。 このときに注意したいことがあります。それは、友人と協働する機会を十分に活用することです。 「学びに向かう力」は個人で学習に取り組む力と捉えられることが多いです。「学びに向かう力」の一部を評価する観点は「主体的に学習に取り組む態度」です。そして、「主体的に学習に取り組む態度」は粘り強い取り組みを行おうとする側面と、自らの学習を調整しようとする側面の両方から評価することが求められています。このため、子どもが自力解決で粘り強く取り組む姿や授業の見通しや振り返りの段階で自己調整する姿から評価することが想定されます。それらももちろん大切ですが、友人と協働する姿を評価することも大切ではないでしょうか。友人の考えを聞いて自分の考えや学び方を調整することもあるでしょうし、友人に理解してもらえるように粘り強く説明を改善することもあるはずです。そのような姿も「主体的に学習に取り組む態度」の表れでしょう。 先ほどのお得な印刷会社を説明する場面でも、子ども一人で表、式、グラフのどれを使うとよいかを考え、評価・改善を通してよりよい説明をつくり出すことは難しいでしょう。そのため、授業では自分の説明を友人の説明と比較する機会を設けることがあります。例えば、数値を求めやすいことから式を使って説明する子どもがいるでしょう。一方で、印刷枚数によってお得な会社が変わることを、グラフを使って視覚的に説明する子どももいるでしょう。または、わかりやすさを重視して、印刷枚数と料金の関係を表した表を使って説明する子どももいるでしょう。そのような子どもたちが交流すれば、一人で考えるときよりも、よりよい説明を考えることが容易になります。友人の考えを参考にして自分の説12学びに向かう力とは協働する活動の重視協働する活動を通して育む「学びに向かう力」大分大学教授 中なか川がわ 裕ひろ之ゆき数学

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