特集の視点教科未来を拓く授業デザイン〜課題に向かう力を身につける〜教科の視点道徳ー 「あなたは道徳が好きですか。道徳の授業が楽しみですか。」こう聞かれたら皆さんはどう答えますか。一年前の私なら「道徳科は苦手で、授業も楽しみとは言いがたいです。」と答えていたでしょう。生徒たちの心を育む大切な時間であることはわかっているのですが、何をどうしたら生徒にとって有意義な授業になるのかがわからず、試行錯誤していました。 しかし、道徳の研究授業を行う機会を得て、この機に道徳科と向き合う決意をし、わが校の研究主題である「自己と向き合い、よりよい生き方を探求する道徳教育の在り方 -思いを伝え合い、広い視野から学ぶ授業の構想-」の下、研究に取り組みました。 「思いを伝え合う」道徳科の授業にするために、まず、自分の意見を表現しやすい集団づくりに取り組みました。「人の話は目で聴く」という合言葉の下、発表している人や話し合いをしている人の方に体を向けてしっかり聴くということを意識させ、その習慣づけを、教育活動全体を通じて行いました。朝の会に始まり、授業中はもちろん、集会やテレビ放送などでも、話している人の方を向きしっかり話を聴くことを意識させました。繰り返し呼びかけることで、今ではクラス全員が「人の話は目で聴く」ことができるようになり、あいづちをうちながら聴く生徒も多くなりました。 そのことにより、話をする側も、聞き手に受け入れてもらっている、わかってもらえた、聞いてもらえてよかったと感じ、今まで以上に自分の意見を伝え、本音で話し合うことができるようになりました。 道徳科の授業での話し合い活動は「自分の意見をもつ→小集団で話し合う→クラス全体で意見を共有する」という流れで行い、次の三点を工夫しました。 一つめは、小集団を三人にしたことです。二人組だとなかなか話し合いが深まらない現状を踏まえ、人数を三人にしました。すると、生徒から「二人組の時は、最初から両方が同じような意見だとそこからなかなか話し合いが進まなかったが、三人組だと、一人は違う意見や視点をもっていることが多く、自然と話し合いが活発になり、自分の意見も深まりました。」という声があがるようになりました。 また、その際、意見を小集団で一つにまとめる必要はないことも伝えました。生徒たちの生活基盤はその家庭環境によって一人一人異なり、さまざまな意見があって当然です。それぞれがどのような意見をもっているか、自分の考えと他者の考えはどこが同じでどこが違うかに気づき、自分、そして他者の考えのよさは何かを考えることが大切であることを伝えました。このことにより、自然に他者の意見を自分の考えに取り入れたり比較したりするようになり、生徒個々が考えを深めることができるようになっていきました。 二つめは、扱う教材によって小集団のメンバー編成を変えたことです。ジェンダーについての話なら男女混合の小集団、人との関わりについて考える教材なら積極的な生徒と消極的な生徒を組み合わせた小集団というように、その教材の道徳的価値に迫る話し合いをするためには、誰と誰を組み合わせた小集団が適しているかを考えました。そのために、日頃から生徒たちをよく観察したり、積極的に話しかけたりすることで、この生徒にはこのようなよい面がある、この生徒はこういうことに興味があるなどの多くの情報を収集して、生徒理解に努めました。 三つめは、クラス全体で小集団の意見を共有する際に、代表が意見をまとめて発表するのではなく、全員が起立して各自が自分の意見を述べるようにしたことです。似たような意見の場合でも、「○○さんの意見と似ているのですが」と付け加えたうえで、自分の言葉で発表するよう指示しました。そうすると、ふだんは消極的で誰かに頼りがちな生徒も、自分の意見を発表する場面があることがわかっているので、人任せにせず、自分の考えをもつことができました。話し合いの場面でも、自分の発表に備えてメンバーの意見を集中して聴く様子が見られ、自分の意見を深めることにつながったように思います。20はじめに自分の意見を表現しやすい集団づくり 話し合い活動の充実 自己と向き合い、よりよい生き方を探求する道徳教育の在り方-思いを伝え合い、広い視野から学ぶ授業の構想-道徳愛媛県松山市立桑原中学校教諭 杉すぎ野の 由ゆき
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