教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 (中学校版)
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特集未来を拓く授業デザイン〜課題に向かう力を身につける〜教科の視点 道徳 『中学道徳2 とびだそう未来へ』(教育出版)に掲載の「譲る気持ちはあるのに……」を扱った授業では、自分自身の感じ方や考え方を視覚的に表現する教具として心情メーターを使用しました。ここで工夫した点は、一人の生徒に四つの心情メーターを使用させたことです。「譲る気持ちはあるのに……」は、電車の中を舞台とした対照的な二つの場面が描かれています。一つは、中学生の真が電車に乗ってきた妊婦さんに、席を譲る気持ちはあるのに譲れなかった場面、もう一つは、電車に乗ってきた妊婦さんに、会社員の私、高齢の夫婦、大学生ふうの若者がかわるがわる席を譲ることを申し出る場面です。 授業の最初で教材の内容を確認したあと、自分だったらそれぞれの場面で席を譲れるか譲れないかを考えさせ、心情メーターを使って表現させました。 「中学生の真」の場面では、かなりの生徒が「譲れない」に近いところにクリップを付けていました。また、「会社員の私」の場面では、多くの生徒が「譲れる」に近いところにクリップを付けていました。そのあと、話し合い活動を行いながら、「席を譲るのはあたりまえなのか。」という問い返しを行い、考えを深めさせ、授業の後半でもう一度心情メーターを使用して、今の自分ならそれぞれの場面で席を譲れるか譲れないかを表現させます。授業後の自分の状況を明確に把握させ、授業の最初に使用した心情メーターの結果と比較することで、自己の考えの変容に気づけるようにしました。 発問はその授業での価値を貫いた内容にするべきであるという共通認識の下、生徒が主体的に考えていけるような発問や問い返しとなるように、学年部で何度も協議しました。「譲る気持ちはあるのに……」の授業では、中心発問を「どうして妊婦さんに席を譲ったほうがいいのだろうか。」に設定しました。多くの人が特に疑問ももたずに妊婦さんには席を譲ったほうがよいと考えているが、なぜ譲ったほうがよいのかを考えさせることで、席を譲る行為の意味を再考させました。話し合い活動を通じて、多様な考えや意見に触れさせ、他律的な考え方から自律的な考え方への変容を促したいと考えたのです。 授業では「妊婦さんが大変だから」「赤ちゃんのことを考えて」などの意見が出ました。これに対しては、「妊婦さんだから譲るのかな。他にも譲ったほうがよい人はいるのかな。」と問い返しました。すると、「お年寄り」「けが人」「小さな子」という意見が出ました。さらに、「譲ってもらった人はどんな気持ちかな。」と問い返します。生徒たちからは、「うれしい」「助かる」「ありがたい」といった意見が出ました。そこで、「じゃあ相手が気持ちよくなるから席を譲るのかな。相手に喜んでもらいたいからするのかな。」と問い返すと、「自分がしたいと思ったから」という意見と「常識、ルール、マナーだから」という二種類の意見が出ました。 このように、さまざまな意見が出ることも想定し、考えが深まるように問い返しをしていきます。どのような意見が出ても、最終的にはその授業でねらいとする価値に迫れるように、生徒の反応と教師の問い返しをチャート図にし、何パターンも用意したうえで授業に臨みました。また、「席を譲らないで放っておくこともできるよね。どうして放っておけないの。」「温かい雰囲気って発表してくれたけれど、温かさって何かな。」など、ふだんあまり考えないことを考えさせるような問い返しも行いました。これらの問い返しにより、生徒がさらに深く考えている様子が見られました。 小集団で話し合ったり、クラス全体で意見を出し合ったりすることで、生徒たちは自分の中には存在しなかった意見に触れ、考え、そこから自分の意見を深めていきます。その過程で、今までになかった考えにたどり着いたときに見せる生徒たちのなんともいえない表情が、私は大好きです。 今回の研究を通じて、多くのことを学びました。このような機会を得たことに感謝し、さらに研究と修養に励みたいと思っています。21ー教具の工夫発問や問い返しの工夫 おわりに

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