教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.4 (中学校版)
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連載デジタル時代の学び 約200年前に、教師が「最近の生徒は紙に頼りすぎ」「石板をきちんときれいにすることができない」「紙を使いきってしまったらどうするのか」と嘆いていた記録があるそうです。現在、学習の道具が「石板→紙→ICT」と変化するプロセスの途上にあるのだと思います。 昔の教師から「紙と石板のどちらが効果的か検証すべき」「紙と石板の使い分け、ベストミックスが重要」との主張を聞いたら、現代の我々ならどのように答えるでしょうか。私なら「使い慣れればわかってくる」「便利で楽な使い方が残る」と答えるかも知れません。結局、紙のほうができることの範囲が広いのです。つまり、比較の桁もそろっていないのですから、比較を考えてしまうこと自体、新しい道具への経験不足だと思うのです。まずは経験が重要となります。紙とICTの比較も盛んに行われますが似た状況だと思っています。 また、我が国でも、やっとスマートフォン(以下、スマホ)で買い物などができるようになってきました。タクシーは乗車中にスマホで決済登録をしておけばスムーズに下車できます。また、あるファストフード店では、まず席に着いて、スマホで注文すれば、商品をテーブルまで持ってきてくれます。今までのように長蛇の列に並ぶ必要も、注文時に慌ててクーポンを探す必要もありません。 これらに共通するのは、過去と手順が変わったり、手順が統合や省略されたりするという特徴です。より本質的で、便利で楽な方向に変化しているのです。レジが不要になるなど、かつては必要不可欠で疑いもなかった手順すらも消えていく可能性があるのです。レジを増やそうとか、高性能にしようとか、そういう改善レベルではないのです。こうしたことをデジタルトランスフォーメーション図1 資質・能力と端末活用(DX)といい、それはPDCAサイクルによる改善では到達しえないのです。 1人1台端末を活用した授業も、より本質的で、便利で楽な方向に変化していくことでしょう。あたりまえと思っていた手順が消えていくことが次々と起こるはずです。私たちが授業と思っているスタイルは、紙や黒板といった物理的限界の中で、多人数に対して効果的に教えるために、100年以上にわたり、改善をし続けた完成度の高いものです。こうした授業の一部だけに情報端末を導入しても、そもそも授業の枠組みが旧来の紙などに最適化されているのですから、大きな効果は得にくいのです。 こうした変化の激しい時期は、「生涯にわたって能動的に学び続ける力」「子ども一人一人が主語」といった資質・能力観や指導観のような大きくて本質的な「観」から、改めて授業を見直していくことが求められるといえます。加えて、自分自身がなぜ教師を目ざしたのか、そういった根本に常に問い合わせていくことも重要でしょう。それらにICTへの慣れを加えれば、きっとよいアイディアが浮かぶことでしょう。 図1で、縦軸を資質・能力、横軸を発達段階とし22東京学芸大学教授 高たか橋はし 純じゅん 博士(工学)。総合教育科学系教育学講座学校教育学分野に所属。独立行政法人教職員支援機構客員フェロー。教育工学、教育方法学、教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会臨時委員(初等中等教育分科会)、文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」委員、「ICT活用教育アドバイザー」、「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」座長代理、等を歴任。日本教育工学協会・会長。デジタル時代の学び授業づくりと1人1台端末1人1台端末を活用した授業の方向性高次な資質・能力の育成とICT活用

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