ー4特集未来を拓く授業デザイン〜課題に向かう力を身につける〜提言 子どもと学び合いながら、学びを深める問いかけができるためには、教材研究で教師自身がまず学び(テクスト・資料・現実の問題といった対象世界と対話する)、さらに、授業においては、学んだ結果を教えるのではなく、対象世界を学習者と共有しながら、先行研究者としてそれを学び直すことが必要です。例えば、島崎藤村の「初恋」という詩の教材研究において、教師どうしで「われ」と「君」の関係をめぐる議論が起こったなら、議論の結果至った結論めいたものを子どもたちにつかませるよりも、まさに教師どうしでも議論が分かれた問い(「『われ』と『君』は両思いなのだろうか」)をそのまま子どもたちに投げかけ、テクストに即した解釈を自由に交流し合う授業を構想するといったぐあいです。 対象世界はいかに深く理解したとしても、完全に理解しきることはありません。例えば、文学作品などのテクストの読み取りにおいて、より妥当な解釈はあっても、「唯一の完全な読み」などはないものです。さらには、自然事象や社会事象についても完全な理解などはなく、科学的な真理とよばれるものも、新たな発見や解釈によって再構成されうるものです。そして、「既知(familiar)なもの」が「未知(unfamiliar)なもの」になる経験は、学習者の知的好奇心に火をつけます。教材研究をしすぎると授業が教師主導で固くなるなどといわれることもありますが、それは教材研究をしすぎるからではなく、教材研究の仕方やそこでの教師の材への向かい方によるのです。教材研究の結果ではなく、教材研究のプロセスをこそ子どもと共有し、たどり直す心持ちが肝要です。 こうして対象と深く対話し学習への関与が高まることで、授業外や学校外の生活における関心の幅が広がったり、学んだ内容が眼鏡となり、考え方が思考の習慣になっていったりと、学校で学んだ先に子どもたちは教科等の世界に参画し学び始めるでしょう(学びへの導入としての授業)。授業で完結するのではなく、授業外や学校外への広がりをもった学びを創るうえで、実際に生活や社会で直面するような状況に即して問題場面〔真正(authentic)な課題〕を考えることも有効です。真正な課題については、例えば、町が主催するセレモニーの企画案を町の職員に実際にプレゼンするようなものもあれば、そうした架空の場面を設定して活動させるようなものもあります。作品を発表する相手を学校の外に設定し、学校外のプロの基準でフィードバックを得る機会を設定することは、学習の真正性の程度を高め、学習者の責任感と本気の追究を生み出す有効な方法です。また、それは、学校外のホンモノの当事者・実践者ともにホンモノの課題や問いを追究する関係に展開するきっかけになるかもしれません。 こうした真正の課題は、単元末や学期の節目で取り組むようにするのが有効です。単元の最初のほうで単元を貫く問いや課題〔例:「世界の国と地域は、これからどのような関係を築いていけばよいだろうか」という問いを探究する(公民)、「自分のことで I have a dream that……. 」を書いて発表する(英語)〕を共有することで、学びの必然性を単元レベルで生み出すこともできるでしょう。そして、生活場面を具体例として科学的知識を導き出す(「わたり」)のみならず、それをより複合的な生活場面に埋め戻す機会(「もどり」)があることによって、概念として学ばれた科学的知識は、現実を読み解く眼鏡(ものの見方・考え方)として学び直されるのです(例:地理的条件に関する情報から知らない都市の気候や文化を推測する、関数として感染状況の変化を読み解く)。3. 「学び超え」につなげるしかけ
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