ー5特集未来を拓く授業デザイン〜課題に向かう力を身につける〜提言 授業とは、目の前の子どもたちの素朴な生活を、より洗練された生活へと組み替えていく営みです。例えば、互いにかみ合わないやりとりや身内でしか通じない私的なコミュニケーションに終始する休み時間等での言語生活の現状が、国語等での学びを通して、筋道立てて伝えられるようになったり、パブリックな会話ができるようになったりしていくといったぐあいです。 さらに、ICTを、「学び超え」のための文具として活用することもできるでしょう。オンライン学習をはじめとするICT環境の整備を、非常時の備えや一つの手法としてではなく、本質的には、サイバー空間上のもう一つの教室(学習空間)の増設問題として捉える視点が重要です(「多層的な教室」)。教室における対面でのコミュニケーション(一つめの教室)が難しくなっても、Zoom等を使えば顔も見ながら同時双方向でやり取りできます(二つめの教室)。さらに、回線が落ちてしまったとしても、学校ウェブサイトやGoogle Classroomなどのオンライン上のプラットフォーム(三つめの教室)があれば、課題のやり取りを通して、文通的、通信添削的なやり取りで学びを支援できるし、共同編集機能を使えば、顔は見えないけれど、リアルタイムで他の子どもたちとつながりながら一緒に学んでいる感覚を一定程度もつこともできます。 こうして多層的な教室空間が生まれることで、単元や授業が終わっても、さらに追究を続けたい子どもたちでグループを立ち上げて学び続けていくことができます。そして、例えば、学校としての共通テーマによる授業研究で教師どうしが協働的に学び合うのとは別に、教師一人一人が各人の個人テーマを継続的に追究するように、みんなで学ぶ授業の場(協働的対面授業空間)とは別に、子ども各人がクラウド上で自由に追究を進めていくような複線型の学び(複線的デジタル学習空間)が並行して展開し、両者を往還させるような学びのデザインも考えられます。例えば、国語の授業で、作品のポイントとなる場面を対面でみんなで読み深めていくのと並行して、クラウド上の学習空間で、自分なりに引っかかった部分を調べたり、浮かんだ問いを追究したりする活動を、各自で自習的に、時にクラスメートと共有したりしながら進め、学習履歴を蓄積していき、時おりそれを対面の授業空間で、マイプラン学習的に展開したり、全体で課題を共有してみんなで追究したりするといったぐあいです。「あなたは何に興味があるのか」「あなたは何をしたいのか」といった、自分がやりたいことを問われる機会、そこから自己を見つめ、自分の強みを見つけていくよう【参考文献】・石井英真:『授業づくりの深め方』ミネルヴァ書房(2020)・石井英真:『中学校・高等学校 授業が変わる学習評価深化論』・石井英真 編著:『高等学校 真ほん正ものの学び、授業の深み』学事出版(2022)図書文化(2023)【著者プロフィール】石井 英真(いしい てるまさ)京都大学大学院 准教授 博士(教育学)1977年 兵庫県生まれ日米のカリキュラム研究や授業研究に学びながら、学校で育成すべき資質・能力の構造化やモデル化を考え、小・中・高の先生方と一緒に、授業づくりや学校改革などに取り組む。日本教育方法学会理事、日本カリキュラム学会理事、文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会「児童生徒の学習評価に関するワーキンググループ」委員などを歴任。【略歴】2005年日本学術振興会(特別研究員)、2007年京都大学大学院(助教)、2008年神戸松蔭女子学院大学(専任講師)を経て、2012年より現職。【著書】『再増補版・現代アメリカにおける学力形成論の展開』東信堂(2020)、『今求められる学力と学びとは―コンピテンシー・ベースのカリキュラムの光と影』日本標準(2015)、『授業づくりの深め方』ミネルヴァ書房(2020)、『未来の学校―ポスト・コロナの公教育のリデザイン』日本標準(2020)など、著書多数。な機会は、主に「総合的な学習の時間」等で保障されるものですが、自分の軸をつくったり、学びへのオーナーシップを高めたりする視点は、教科学習においても意識するとよいでしょう。 そうして、子どもたちの学びを触発し、見守り寄り添ったり、子どもの声を受け止めたり、課題提起を行い世界を広げたりしていくうえで、子どもに先立ってまずは教師自身が一人の学び手として材と向き合うことが重要です。教師ですら教科書は読めているようで読めていないものですし、物事は理解しているようで理解できていないものです。子どもにどう教えるかとかどうしかけるかの前に、子どもと一緒にこの材を学び直そう、この問いを考えてみようといった気持ちで、材と向き合い子どもとともに学んでいく姿勢が重要です。
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