ー9特集未来を拓く授業デザイン〜課題に向かう力を身につける〜教科の視点 書写『中学書写』を使用した草稿作りの様子楷書のみの作例や配列などについて、個々に検討を進めていきました。自分の選んだ文字や言葉について、あえて紙媒体を使用して探す過程は、一見手間がかかるようにも思われますが、時間をかけて探し、発見していくことで得られる実感を、より強くもたせることを大切にしています。 第2時では、草稿作りを進め、それを踏まえて、筆記具も選択しながら、掲示物の制作を行いました。楷書にこだわって制作を進める生徒もいれば、行書のみを用いる生徒、文字の意味や印象の違いを意識して、楷書と行書を併用する生徒も見られました。 また、行頭や行末を揃えたり、あえて斜めにずらしてみたり、大きく余白をとったりと、発展的な内容ではありますが、短冊や色紙などでの散らし書きに通ずる書き方をしている生徒も見られました。さらに、余白を用いて、俳句・短歌の内容に関わる絵をつけ加える生徒も多く見られました。以上のような過程を経て、書字についても、言語表現においても、生徒の個性を生かした掲示物を制作することができました。楷書・行書の作例意見交換の様子 第3時では制作した掲示物を用いて、意見交流し合う場面を設けました。付箋を交換し、意図や思いを共有しながら、それぞれコメントを返す形をとっています。書字の意図や工夫に対するやりとりに加えて、俳句や短歌に対する感想やアドバイスもやりとりする場面としました。 これは、ときに国語科の学習と国語科「書写」の学習が結びつき共存することを生徒に実感させる場面としたかったからです。「言葉や言語表現」にさまざまな思いや意図があるからこそ、書字する際にも多くの工夫が生まれ、書字の工夫がさまざまになされるからこそ、できあがった掲示物に一人一人の個性が見出されるということを実感させます。国語科と国語科「書写」の授業で、それぞれの柱となっている「言葉・言語表現」と「書字」が、連関したり一体化したりするからこそ、生徒の学びや理解も、より広がり多様化していくのだと思います。 教科での学習や学校でのさまざまな行事を通して、俳句や短歌を生徒自身に詠ませるという取り組みは、多くの学校ですでに実践されていると思います。俳句や短歌といった「言語表現」として制作したものを、掲示物の形をとって書字するだけではなく、それぞれの制作過程に意図や工夫が存在することを意識させ、適宜関連づけたり、一体化したりしながら、批評や価値づけする過程を設定していくことによって、国語科「書写」の授業のあり方を多様化させていくことができるのではないでしょうか。本稿をその一例として、「書字」と「言葉・言語表現」をとおして、生徒の学びを広げる一助としていただければ幸いです。おわりに
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