輝いて生きるための自分デザイン教科の視点 社会特集 本時では、アメリカ合衆国の気候(気温・降水量)の特色を確かめたあと、農牧業の地域区分を意識させながら展開を図ります。なぜ西経100度より東側の地域を中心に綿花地帯、とうもろこし地帯、酪農地帯となるのかを考えさせます。北アメリカの農業地域の様子を例に自然環境だけでなく、機械化や資本投下などの要因によって、農作物が生産されていることを意識させたいところです。 p.97資料4の「アメリカ合衆国とカナダの農業地域」を活用しながら、臨場感を持たせる意味で動画「NHK for School」を併せて活用し、興味・関心が高まるようにします。のちに紹介するGoogle Earthなども動機づけのツールの一つとして有効活用し、指導にあたるとよいでしょう。 「肥育場で育てられる肉牛(p.97資料5)」の写真から、輸入に頼っている肉類などの日常的な食材が日本の食卓に上がるまでの様子について生徒たちに意識させることも大切です。 教科書の写真は、p.97資料5など生徒が生まれる以前に撮影されたものが掲載されています。大きく景観が変わるものではないと推察されますが、農業機械の技術は日進月歩であるためGoogle EarthやGoogle Mapでストリートビューを利用し、現在に近い状況を確認します。最初は教科書で紹介されている場所を検索させ、時間があれば他の農業地帯を調べてみるとよいと思います。それぞれの農業地帯を俯瞰させるときは前者を、人間の目線で閲覧させる場合は後者を利用します。 以下に検索キーワードの例を紹介します。●センターピボット“ネブラスカ州オガララ”“カンザス州マクファーソン”など●肥育場“テキサス州トゥリア・フィードロット貯水池”“ネブラスカ州ブロークン・ボウ”など 農業地帯を探す場合、闇雲に検索しても探し当てることは難しいため、上記以外を含めて予め教員が地名などを調べておく必要があります。ただし、探し当てることが目的ではなく、その地を知るきっかけや動機づけであることは意識したいところです。【参考文献等】・地理教育研究会編:『授業のための世界地理』古今書院(2020)・上杉和央・香川雄一・近藤章夫編:『みわたす・つなげる人文地理学』古今書院(2021) ほか 自然環境や社会環境などを生かして適地適作を展開するアメリカ合衆国では、効率を優先する一方で、自然環境へ負荷をかけていることも考えさせます。 例えば、とうもろこしを1t生産するためには約1,000tの水が必要とされることを提示したうえで、センターピボット方式の場合「水はどこから持ってくるのか」を問いかけてみます。実際に利用されている水は、グレートプレーンズにあるオガララ帯水層(名称を出す必要はない)の地下水です。環境省によると「総面積が約45万k㎡、日本の国土面積の約1.2倍もあります。灌漑農業が始まってから2007年までの水位低下は、3,600を超える井戸の水位調査によると、平均で約4.3m低下し、3.0m以上低下した割合が約26%、7.6m以上が約18%、15.2m以上が約11%」と報告されています。 また、最近の研究論文の中でも「何の改善もされることなく現在のオガララ帯水層からの取水ペースにより灌漑農業を続ければ、ハイプレーンズ南部域の穀物生産は崩壊し、それは、世界の食糧安全保障にまで影響します。」(熊谷朝臣『Peak grain forecasts for the U.S. High Plains amid withering waters【地下水資源から占う穀物生産の未来】』Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America〈2020〉)と指摘されています。 アクティブラーニングを効果的に行うためには、適切な資料読解を通じた知識の獲得が最重要です。 例えば、地下水層の枯渇と合わせて農地の改変による土壌侵食の進行を補足することで、自然環境への負荷が食料生産量の減少へとつながることを指摘できます。生産量が減少した場合には、食料自給率が40%を下回る日本にも大きな影響を与えるという、より身近な問題を意識させることが可能です。 世界規模の課題を中学生が直接解決することはできませんが、授業を通して現状を提示することで、生徒たちが一歩深めた認識をもつことや地球環境への、好奇心・探究心を育むようになることが大切だと言えます。11指導にあたってデジタル教科書のコンテンツ利用Google Earthなどの利用アメリカ合衆国の農業問題に触れるおわりにー
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