輝いて生きるための自分デザイン教科の視点理科ー ③結果を共有する 作業は一人でも、得られた結果を共有することで対話が生まれます。それも、単に同じ作業を行ってデータを積み重ねるより、それぞれが少し異なるテーマで取り組んだ結果を持ち寄って、そこから新たな事実が明らかになるようなものが望ましいと考えています。また、一つの実験・観察を班員と作り上げていくという感覚は、実験・観察に向かうモチベーションにもなるのではないかと考えました。①一人で取り組める環境を整える これまでは4人で一つの班をつくり、班に一つの実験・観察セットを渡していました。しかしそれでは、すべての生徒が同じ作業を行うことはできません。自然と作業を進める生徒とそれを見ている生徒に分かれてしまいます。作業を分担して行うよう指示したこともありましたが、そうすると生徒は自分の分担に意識が向いてしまい、全体の流れをつかめないように感じました。生徒が自分で納得しながら作業を進めるためには、一人に一つのセットを用意することが理想ではないかと考えています。①一人で取り組める環境:図鑑は一人一冊 図鑑は一人一冊用意しています。以前は4人の班に一冊でしたが、それでは一人が使っている間、ほかの班員は見ているしかありません。観察できる種をプリントにまとめて全員に配布したこともありますが、それも十分ではありませんでした。図鑑に載っている膨大な種類の中から自分で一つに絞り込んでいく過程が興味を引き立て、観察力を養うと考え、全員が使えるだけの図鑑を用意しました。②適切な難易度設定 易しすぎず、難しすぎず、適度な難易度を設定するのはどんな授業でも同じだと思います。とりわけ、実験・観察の場合には特に気をつかいます。実験・観察はそのまま理科への興味・関心につながるものなので、できるだけその効果を高めたいと思うからです。ですが、これはやってみないとわからない部分があります。授業を繰り返し行いながら、改善を繰り返しています。特集の視点教科 理科の特色の一つは実験・観察を授業に取り入れられることでしょう。実験・観察では、生徒は「主体的」に手を動かし、班員と「対話」しながら作業を進めていきます。自然現象を実際に目にすることは学習への動機づけにもなり、また、予想外の結果が得られれば、その結果を考察することで発展的な学習へつなげることもできます。授業のスタイルとしては理想的な形であると考え、私も積極的に実験・観察の授業を取り入れてきました。しかし、実験・観察を多く取り入れるほど、当初の目的を達成できていないのではないかと感じることも増えてきました。例えば、作業自体は主体的に行っていても、実験・観察に向かう姿勢は必ずしも主体的ではないことや、班で行う実験・観察で特定の生徒が主要な作業を行ってしまうことなどです。どのようにすれば生徒一人一人が、実験・観察を通してより「深い学び」を得られるのか、以下のような点に注意しながら実験・観察を組み直しています。 1年生の「身の回りの生物の観察」では、花や昆虫の観察が多いと思いますが、本校ではそれに加えて樹木の観察を行います。理由の一つとして、夏に行われる富士山での夏期学校があります。富士山では標高によって植生が変わるため、垂直分布を見るにはよいフィールドです。そこで、夏期学校までに樹木の見方をマスターさせ、標高による植生の違いや学校周辺の植生との比較をさせたいと考えました。 もう一つの理由としては、初心者にも使いやすい図鑑の登場があります。従来の植物図鑑は、科ごとにまとめられているものが多く、葉・茎(幹)・花などを総合的に見ながら種を同定していくため、初心者には取り組みにくいものでした。しかし最近、葉の形や枝への付き方で検索できる樹木図鑑がみられるようになりました。検索の観点が明確に示されているため、生物観察の導入に適していると考え、使うようになりました。本校では「葉っぱで見わけ五感で楽しむ 樹木図鑑」(監修:林将之、ナツメ社)を使っています。14はじめに樹木の観察実験・観察をより主体的に取り組ませる工夫市川学園市川中学校・高等学校教諭 庵い原はら 仁じん理科
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