vol.2連載地球温暖化の影響が最も顕著なのが、アラスカをはじめとする極地です。データにも如実に表れており、アラスカにおける過去50年間の気温は、地球上の他の地域の約2倍も上昇しています。高気温が雪や氷を溶かし、そのことがさらなる温暖化を進める、という悪循環に陥っています。その影響は多岐にわたり、自然環境はもとより、そこに暮らす生き物たち、さらには人々が集う村や町にまで及んでいます。温暖化の被害から命を守るため、移住を選択する村もでてきました。昨年訪れた先住民の村、ニュートクもそのひとつです。小型飛行機で原野を数時間飛び続けた先に突然現れる、まさに陸の孤島でした。村の様子に胸が押しつぶされそうになりました。永久凍土の融解が進む地盤はどこも水田のようにぬかるみ、歩くことができるのは幅2メートルほどの板張りの道のみ。家や電柱は傾き、侵食された沿岸には解体後の家々の基礎だけがポツンと取り残されていま28した。約半数の住民はすでに新しい土地に移住しており、消えゆく集落の姿が未来の地球と重なる不安を感じてしかたがありませんでした。誰よりも自然を慈しみ慎ましく暮らしてきた彼らが、生まれ育った村を追われようとしているー。その責任の一端は確かに自分にもあるーそう痛感したできごとでした。1972年松山市生まれ。自然写真家。アラスカ大学卒業。年の約半分をアラスカで過ごし、単独でキャンプをしながら、動物やオーロラを撮影する。その活動はTBS『情熱大陸』『クレイジージャーニー』、米国『National Geographic Channel』などでも紹介される。北米大陸最高峰デナリにも登頂。公式HP:www.matsumotonorio.com消えゆく村松本紀生
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