「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点数学ー 特集の視点教科12表 中1「分数を含む1次方程式」ルーブリック 2021年に示された中央教育審議会では、目ざすべき「令和の日本型学校教育」の姿を「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」としています。 「個別最適な学び」については、習熟の度合いに応じた授業形態に求めることもありますが、多様な他者の価値観を尊重し、他者と協働しながらさまざまな問題を解決する力を育成するには、「協働的な学び」をよりいっそう重視していくことも重要であると考えます。 そこで、「数学が苦手な生徒や得意な生徒など、すべての生徒が考えることを楽しむことのできる授業」を目ざし、中1「方程式」の分数を含む1次方程式を題材とした2時間扱いの実践事例を紹介します。 すべての生徒が考えることを楽しめる授業を構想するための第一歩は、生徒の具体的な姿を把握することであると考えています。そこで、数学科における具体的な力について、「算数・数学の力(以下「数学の力」)」(長崎栄三 他23名 2008、p.11-21)に着目しました。「数学の力」には次の3つの他者の考えを参考に、分母の(最小)公倍数を求め、これを両辺にかけることで分母をはらうことができることを理解する。これまでに学習してきた解き方を活用して、指示にしたがい分数を含む方程式を解こうとする。他者の考えを整理したうえで、方程式は整数に直すことで解くことができることを理解している。「2x=4」や「x-2=0」などを参考に、「ax=b」や「ax+b=0」の形の方程式をつくることができる。分母の最小公倍数を両辺にかけて係数や定数が整数に直すことができることを、自ら進んで等式の性質を使って説明できるとともに、分数を含む方程式を解くことができる。別の解き方を自ら進んで考えようとするとともに、それぞれの解き方を説明することができ、分母をはらう活動がどこでなされているかを指摘することができる。自ら進んでこれまでの方程式の解き方を振り返り、どの方程式も両辺を同数倍する(同数で割る)ことで、係数や定数が整数の方程式に直すことができることを理解する。「ax=b」や「ax+b=0」の形の方程式をもとにして、自ら進んで4つの等式の性質を使った複数の方程式をつくることができる。水準で、具体的な姿が設定されています。 そこで、生徒の姿を把握することを目的として水準ⅠをC、水準ⅡをB、水準ⅢをAとする「ルーブリック」を作成しました(表)。 「ルーブリック」の「観点/段階」には、授業の指導過程にそって、重視すべき数学的活動を「数学の力」に照らし合わせて、①~④の4つの段階で明記しています。 例えば「観点/段階」の①に着目すると、Cでは「他者の考えを参考に」という水準Ⅰに該当する姿を、Bでは「自ら進んで」という水準Ⅱに該当する姿を、Aでは「目的に照らして」という水準Ⅲに該当する姿をそれぞれ位置づけています。 作成した「ルーブリック」に記載された姿の実現を目ざし、授業を構想していきます。分母の公倍数をかけても整数に直せるが、最小公倍数をかけた方が効率的に計算できることをその目的に照らして説明することができるとともに、このような方程式を短時間に正確に解くことができる。目的に応じて方程式をいろいろな方法で解くことができるとともに、それぞれの考え方を適切な数学の表現を踏まえて端的に説明し、考え方のよい点を指摘することができる。方程式の中には、小数や分数を含まない方程式に直すことで、同値な方程式になると捉えることができることを理解するとともに、他者の立場に立ってこれを説明できる。小数や分数、また( )などを用いて方程式をつくることができとともに、このような方程式をつくった過程を他者に説明することができる。①分数を含む方程式において、多様な解き方の中から分母をはらう考え方に目を向け、係数や定数を整数にするためには分母の(最小)公倍数を両辺にかけることを理解するとともにこの方法で方程式を解くことができる。【分母をはらうことの理解と技能】②上記Ⅰを振り返り、さまざまな方法で方程式を解くことができることを理解するとともに、どのような考え方を用いているかを説明し、分母をはらう考え方との相違点を指摘することができる。【多様な考え方の理解】③これまでに学んできた方程式は、見た目は異なっていても、係数や定数を整数にすることで同値の方程式になることが理解できる。【同値の方程式の理解】④等式の性質を基にして、方程式の解が、例えば「2」の方程式をつくることができる。【方程式の構造の理解】観点/段階C(水準Ⅰ)水準Ⅰ「指示に従って活動できる」水準Ⅱ「自ら進んで活動する」水準Ⅲ「目的に応じて活動する」B(水準Ⅱ)A(水準Ⅲ)はじめに生徒の姿を把握する「ルーブリック」すべての生徒が楽しめる授業の構想(1)第1時の授業の構想とその様子 第1時は「ルーブリック」の①及び②の段階の達成を目ざして、本時の目標を「分数を含む方程式は、両辺に分母の(最小)公倍数をかけて、係数を整数に直して解くことができることを理解する」と設定しました。すべての生徒が考えることを楽しめる授業を目ざして北海道教育大学附属旭川中学校主幹教諭 菅すが原わら 大だい数学
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