「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点 理科特集 ー15図2 浮き上がり現象 光の学習では、ヒトの目や脳のはたらきとの関連が重要になります。私の授業では、作図で何度も目を描き入れさせます。問いの「重要なものを図に描き足し・・・」の言葉を聞いて、勘のよい生徒は目を描き足すことに気づきます。ただし、描き足した目が答えとどのように結びつくか分からない生徒もいます。その後は、生徒たちどうしで話し合う中で、「硬貨から出た光は、左目と右目*それぞれに届く道すじが違う。そして、それぞれの目に入った光は平行ではない。平行でない2つの直線は必ずどこかで交わる。観察者にはその交点から光が届いたように感じ、交点に硬貨があるように見える」ことに気づきます。(*片方の目でも目の右端、左端等に入った光の経路の違いで認識できます。よりわかりやすく理解するために両方の目で扱っています。)がって進んできたことまでは認識できません。観察者は目に入った光がまっすぐ進んで届いたものと感じます。だから、観察者には図2の点線上の位置pに硬貨があるように見えます。」とここまでの説明は生徒たちも納得します。この時点で「何か質問はありますか?」と尋ねても、大抵、生徒たちからの質問はありません。「では、私から質問します。観察者は、目に入った光がまっすぐ進んで届いたと認識し、その硬貨は図2の点線上の位置pにあるように見えます。しかし、硬貨の像の位置は点線上のaやbやcなどの他の位置も考えられます。硬貨の像が点線上の1つの位置に決まるのはどうしてですか。それを決める重要な役割を果たすものを図2に描き足しなさい。」【参考文献】・文部科学省:『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』 平成29年7月(令和3年8月一部改訂) 光や像の学習は、現象を視覚的に捉えることができて、生徒たちの興味・関心が高い教材の1つです。一方で、通常、光の道すじは目で見ることができないため、光の性質を理解する上で作図は欠かせません。現象と対応するように適切な作図の理解が求められる教材でもあります。はじめにあげた「凸レンズを通った光とスクリーン上の様子」の事例は、作図の線が現象に対してどのような意味をもつか、学びの過程での“より深い習得”と“活用”につなげる意図があります。そして「浮き上がり現象」の事例は、“習得した知識を活用”して、他者と対話しながら問題解決を図る意図があります。2つの事例で投げかけた「問い」は、どちらも、像ができる位置に対して像ができない位置を考えさせることで、生徒たちに“より深い習得”と“活用”を他者と話し合いながら、考え、楽しみ、そして“深い学び”につながることを期待して取り組んでみました。 光学台のスクリーン上に像ができたり、水を入れて硬貨が見えたりすると、生徒たちは驚きの表情や興味津々な姿を見せます。一方で、「見たもの」から「その不思議さに気づく(問題を見いだす)」ことは容易ではありません。私たち教師は、生徒たちが「問題を見いだす」ことができるように、場面に応じた「問い」を用意し投げかけて、手助けする必要があるでしょう。そして、生徒たちが主体的に考え、他者と対話しながら問題解決を図るためには、必要となる既習知識をしっかり身につけさせておくことが、重要になると思います。 本稿を読まれて、同じ投げかけの問いを用いて授業を行われている先生方も多くおられると思います。私は、できる限りわかりやすい題材で、生徒たちの頭の中にイメージをわかせて、適切な理解が図れるような教材で授業を行うように心がけています。教科書には、そのような題材がたくさんあります。わかりやすく、よい題材を選定して、生徒たちに疑問や関心を抱くきっかけをつくれる投げかけが、生徒たちが楽しく考えながら学ぶ学習につながるものと考えます。深い学びにつなげる授業デザインおわりに
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