「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点 音楽特集17譜例2 「雨」(ポツ・ピトン・ザー)※筆者が指導する大学生作品譜例3 「パンダ・ゾウ・しまうま」筆者作品※本誌は、令和3年度版『音楽のおくりもの』教育出版に掲載された教材を用いた授業例を紹介しています。「全体の構成を考えながら音楽をつくろう」を用いた授業展開例1年p.34-35 言葉のアンサンブルを用いた創作は、生徒が日常で使っている言語を使う表現なので、楽器のアンサンブルに比べると取り組みやすい題材です。ただし、校種を越えて実践するうちに、考える時間を楽しくするためには、幾つか音楽的に重要なポイントがあることに気づきました。(1)活動1 テーマを決める場面 生徒が関心をもつテーマであったとしても、言葉のリズムや響きに違いがないと、アンサンブルの楽しさを味わえません。例えば、「遅刻」というテーマを決めて、「タタタタ(走る音)」「ドタドタ(足音)」「バタバタ(床の音)」「ドンドン(荷物が上下する音)」を考案したとします。実際の音を多重録音する作品なら楽しいと思いますが、上の言葉を素材に重ねた場合はリズムも響きも単調になっておもしろみがありません。そこで、「長いリズムや短いリズム、はねるリズムなど、各リズムに特徴や個性をもたせましょう。」と助言します。これだけで、アイデアの質は格段に変わります。同じような音とリズムで、各パートの特徴が埋もれてしまう例と、違いのある音とリズムで、各パートのリズムが活かされる例を実演して、生徒に何が違うのか気づかせるのもいいと思います。助言のタイミングも、実態に合わせて決めてください。(2)活動2 繰り返しや重なりを考える場面 教科書ではカードを使っていますが、私は〇×方式のリズム譜を使っています。〇のときに発話し、×のときは休みます。工夫した構成が視覚的にわかりやすく、まとまりもよくなります。譜例2は6名で3パート構成の事例です。各自が考えた案をもちよって、誰の案でグループ発表するか決めるように促しました。(3)活動3 ストーリーに合う工夫 ストーリーは、テーマを考えた時に思いつくこともありますが、合わせている間に発案されることもあります。例えば、先ほどの「遅刻」がテーマの場合は、“途中で信号待ち”とか“教室のドアを開けてセーフで終わる”であったり、“ラーメンを食べる”がテーマの場合は“途中で汁を飲む”とか“最後にこぼしてしまう”などが想定されます。身近なテーマや興味のあるテーマを設定したグループのほうがストーリーに感情移入しやすいようです。リズム譜には、強弱記号や表現上の書き込みをするように促してください。 そして、生徒から「最後だけ別の言葉を言っていいですか?」とか、「終わりを伸ばして一斉に終わりたいので、そこだけ指揮をしたい!」と声が寄せられたら、しめたものです。体操競技でフィニッシュポーズがあるように、音楽のフィニッシュも特別な瞬間であることを伝えて認めます。すると、「セーフ!」という言葉で終わったり、それぞれの声で最後の言葉を伸ばし、指揮に合わせて同時に終わったりするなど、終わり方の工夫が生まれます。(4)発展 「くいしんぼうのラップ」(和田崇 作・構成 同教科書p.36-37)のように、譜例2の楽譜を使って、名詞や台詞でつくるのもお薦めです。その際、音高の特徴や、表したいイメージも考えるように促します。譜例3は、「ゾウ」と「パンダ」と「しまうま」を合わせる例ですが「ゾウ」は低い音高で重量感をもってゆったりと発音し、「パンダ」は破裂音を活かして「意志の強いパンダ」のイメージで発音します。「しまうま」は、高い音高で、草原を走るイメージをもって裏声で発音します。 豊かに表現できる生徒を褒めたり、モデル動画を視聴させたりして、無意識に同じ音高に同調していかないよう留意させるのがポイントです。ー
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