教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.6 (中学校版)
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「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点道徳ー 特集の視点教科20 「考える時間」を楽しむためには、「考えたくなる発問」をすることが第一です。そして、意見を出し合い、その意見を生かして更に考えをみんなで深め合っていくと、おもしろさ、楽しさが増していきます。 道徳科は他教科とは違い、授業でどう教えるかよりも、何を考えさせるかに主眼を置くべき教科です。特に中学校の場合、「人間としての生き方」について深く考えさせたいところです。 私は、生徒の意見のまとまりを地層のように1層2層と重ねていく、重層的な展開を授業デザインとしてイメージしています。問いから意見が出され、意見を出し合いながら更に問いが生まれ、発展的に層が重なっていく営みの中には、「考える時間」を楽しむ要素がふんだんに含まれています。 物語性のある教材、特に登場人物の変容とねらいとする道徳的価値が響き合っている教材では、物語の山場の場面に比重を置き、中心発問や補助発問(特に切り返し発問)を吟味し、授業を展開します。また、内面を育てる授業になるよう、話し合いだけに終始せず、彩りや潤いのある授業を心がけています。そのために、特に導入と終末で工夫をします。【教材あらすじ】 死を待つだけの重症患者が入院している病室には窓が一つしかなく、ぶ厚いカーテンで閉ざされていた。患者たちにとって唯一の楽しみは、窓に1番近いヤコブが、苦しい思いをしてカーテンの隙間に顔を突っ込んで外の様子を伝えてくれるのを聞くことだった。「私」は、ヤコブだけが外の様子を見られることを憎らしく思うようになり、ひそかにその死を願った。ヤコブの死後、「私」が待ちに待った窓際のベッドに移り、カーテンの隙間をのぞき込むと、そこから見えたのは、冷たいレンガの壁だった。内容項目:D-(22)よりよく生きる喜び(『中学道徳3 とびだそう未来へ』教育出版 より)本時のねらい:ヤコブが死に向かう現実の中で、周りの人に期待と希望を与えようと最期まで人間らしく生きる姿を通して、人間として生きることへの誇りをもち、自らもよりよく生きようとする心情を育てる。(1)導入段階の工夫 「D-(22)よりよく生きる喜び」は、全ての項目の総まとめのような内容項目であり、生徒の生活経験と結びつけてテーマを提示したり、問題提起したりするのはそぐわないケースが多い項目です。 導入では、教材への方向づけと意欲喚起をねらい、時間をかけずに展開段階へと進めることを考えました。教材の場面状況を理解させるために、ミニカーテンを準備し、黒板の中央にマグネットで配置して窓があるという設定をつくりました。 そして、その窓は寝たきりで死を待つだけの患者たちの病室に一つだけあることを伝え、ヤコブがやっとの思いでカーテンの隙間をのぞき込む様子を私が演じました。どんな話なのかと生徒が興味をもち始めたのが、表情からわかりました。(2)山場からの重層的な展開 本教材では、よりよく生きようとする姿は、ヤコブの行為を通して描かれています。死を待つだけの患者たちに、それでも生を全うするための喜びをヤコブは与えています。したがって、ヤコブの行為の奥にあるものを探らせることが肝要ですが、状況をしっかりと認識させたうえでなければ、ヤコブの気高い行為の根底にあるものを探らせることはできません。 そこで、まずは物語の山場、「私」がカーテンの隙間をのぞき込んだ場面で、どんな思いになったのかを探るところから始め、そこから、ヤコブの行為の奥に秘められた信念を探る展開を考えました。T1「私」は、カーテンの隙間をのぞき込んでどんなことを思っただろう。授業デザインについて中学3年生『カーテンの向こう』の実践「考える時間」を楽しむ道徳科の授業デザイン道徳愛知県西尾市立東部中学校校長 石いし川かわ 雅まさ春はる

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