「考える時間」を楽しむ授業デザイン連載デジタル時代の学びー 特集22 これからの時代は、思考力、判断力、表現力等の高次な資質・能力の育成がいっそう求められます。これは何十年も前からいわれてきたことです。しかし、一斉指導といった伝統的な授業法の延長上での改善は、ほぼ限界まで進んでいるといえるでしょう。先達たちが、何十年もかけて改善を重ねてきたのですから、ある意味で当然といえます。元々、伝統的な授業法は、個別の知識・技能を問う客観テストや受験問題に向けた指導には、特に優れていますが、一斉指導がベースであるがゆえに、自らが計画して主体的に学ぶ必要のある高次な資質・能力の育成には限界があります。 将来にわたって、子どもたちに求められる資質・能力は高度化していくことでしょう。加えて、特別な支援を要する子どもたちも増え、多様化への対応も求められています。私たちは常に進歩していますから、こうした高度化や多様化の流れは止められません。つまり、従来と同じ授業を続けることはできません。もちろんこれまでも、我々はしっかりと改善に取り組んできましたが、これからは改善を超えた新しい授業づくりが求められていると思います。 また、それに加えて働き方改革といった課題もあります。伝統的な授業法を、単に丁寧にしたり、細かく対応したりするといった従来の授業に加算していく改善は、業務量としても、これ以上できないところまで追い込まれているといえるでしょう(図のB)。 「主体的・対話的で深い学び」「『個別最適な学び』と『協働的な学び』の一体的な充実」といったメッセージは、先に述べたような高度化や多様化にいっそう対応するための「考え方」として捉える必要があります。単に現行の授業の「改善法」と考えれば、さらに業務が次々と上積みされる印象をもつことになります。単に付け加えではない、新しい授業法が求められています。 しかし、こうしたことは過去にも指摘されてきました。なぜ過去にうまくできなかったのでしょうか。多くの要因があると考えられますが、一つは道具が古かったといえます。授業が高度化し、多様化していくということは、教室で流通する情報量が増えることを意味します。さらに子ども一人一人の資質・能力をいっそう高め、一人一人のニーズにいっそう対応することが求められますから、紙や黒板といった旧来の道具では、情報を受け止めきれません。そこで情報を取り扱うための機器である、1人1台端末が活躍するのです。 逆に、伝統的な授業法に1人1台端末を加えた場合、使わないほうがよい授業になると思う先生も多いでしょう(図のB)。実は私もその一人です。伝統的な授業法とは、低速・低量な情報流通を前提とし、先達が何十年も改善を続けた授業法です。情報端末がなくても成立します。当初から、個別の知識・技能が主なターゲットでしたから、十分だったわけです。 私が関わっている学校では、従来と比較して、別次元ともいえる授業が展開されています。「深い時短」と名づけていますが、子どもたちは短い時間で深く学びます(図のC)。子どもたち一人一人が、情報端末を活用し、複線型で、アウトプット中心にデジタル時代の学び新しい授業づくりに向けた心がまえ今後も継続的に、高度化、多様化に対応した授業づくりが求められる1人1台端末はなぜ必要か授業の本質をどこに求めるか東京学芸大学教授 高たか橋はし 純じゅん 博士(工学)。教育学講座に所属。東京都教育委員。独立行政法人教職員支援機構フェロー。日本教育工学協会・会長。教育工学、教育方法学、教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会教員養成部会臨時委員、中央教育審議会デジタル学習基盤特別委員会委員長代理、同次期ICT環境整備方針の在り方WG主査、文部科学省今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会委員、等を歴任。
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