教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.6 (中学校版)
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「考える時間」を楽しむ授業デザイン提言ー3特集 A図によると、迷路の分かれ道に来たとき、「こっちだ」とすぐ判断してしまうネズミは学習が遅いんですよ。じっくり考えた個体にだけ学習が成立しているのです。さらにおもしろいのは、じっくり考えて正解したときと、じっくり考えたけれど失敗してしまったときと、どちらが学習に寄与するかというと、失敗してしまったときです。 これは人間も同じで、じっくり考えてまちがえると「なぜまちがえたんだろう」ともう一度考えると思います。逆にすぐ判断して、たまたま正解した場合は、安心してしまって復習しないので、むしろ学習の妨げになる。じっくり考えて失敗することが、脳の学習のドライビングフォース(何かを駆動させるための力)になっていると感じます。 では何でも失敗すればいいのかというとそうではありません。B図は失敗したときの結果です。1個1個の点はネズミを表しています。B図 右上がよく学習できるネズミで、左下があまり学習できないネズミです。よく学習できるかどうかは、餌の場所をスムーズに覚えられるかどうかだけでなく、通せんぼされたとき、どこがいちばん効率がいい行き方か、迂回路を瞬時に思いついて臨機応変に対応できるかということでも決まります。 失敗をたくさんするほどよく学習できることが縦軸に示されているのですが、おもしろいことに、この失敗は学習の初期段階でなされています。例えば10日間で迷路を覚える場合、1日めか2日めにたくさん失敗するほど成績がよく、逆に最後のほうに失敗が多いと成績は下がってしまうのです。横軸の「Choice Variability」はエントロピーともいい、bitは情報量の単位を表しています。失敗したときに「さっきは右に曲がって失敗したから今回は左に行ってみよう」と動けるのがエントロピー(情報量)が高く、逆にいつも同じ方向に曲がって失敗してしまうのがエントロピーが低いということです。 初期の段階でいろんな失敗をしていたネズミのほうが学習成立までが早く、よく学習できるということがB図では示されています。 ここで思い出されるのがノーベル物理学賞受賞者のニールス・ボーアが言った、「エキスパート(専門家)とは、特定の分野で、およそ考えられうる限りの失敗を犯した人である」という言葉です。専門家というと「正解をたくさん知っている人」と思いがちですが、そうではないのですね。 まちがえるのは悪いことではないし、学びのためにはどんどんまちがえたほうがいい。まちがったことを喜び合えるような、先生と子どもたちとの関係性は必須だと思います。職場の雰囲気が悪いと大人でもブレインストーミングの機会に、いいアイデアが出てこないですよね。子どもの場合はなおさらです。まちがえたり的外れなことを言ったりしても茶化されたり否定されたりしない雰囲気づくりが重要です。むしろ正解してしまった子が「ゲームオーバー」と冷やかされるくらい、教室の雰囲気を誘導することが、先生には求められます。 よく学習できるようになるためにはじっくり考えることが重要だとわかっても、授業ではなかなか時間がとれないと思います。そんなときに使える「ゲシュタルト崩壊」を用いたテクニックを紹介します。 文字や漢字をじっと見続けていると、慣れ親しんだ自分の名前であっても「なんでこんな形をしているんだろう」と、全く知らない漢字のような、自分ゲシュタルト崩壊を用いて視点を変えるテクニック

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