教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.6 (中学校版)
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「考える時間」を楽しむ授業デザイン提言ー4特集の名前じゃないような気がしてきます。これを「ゲシュタルト崩壊」というのですが、さて、どのくらいの時間でそうなるでしょうか。実はたったの30秒程度といわれています。この速さを使わない手はありません。 思考がゲシュタルト崩壊すると、心が別世界に旅行しているかのように、全く違う角度から物事を眺められます。「自分はなぜこんな問題を解いているんだろう」と違った見え方がして、いろんなことが頭に入る。そして現実に戻ってくると、さっき解けなかった問題が解けたり、違う解法が思いついたりします。いろいろな効果があるので、うまく誘導するためのテクニックとして私が提唱しているのは、空想上のボールを使う方法です。目を閉じて、ボールを手に持っていると想像してください。このボールを、頭の上に乗せてゆっくり手を離します。落とさないよう30秒ほどバランスをとったあと、ぱっと目を開けると、目の前が全く違って見えます。これは大人も使える瞬速集中法で、仕事を始める前にボールを頭上に乗せることをイメージをするだけで、目を開けてすぐに集中モードで仕事に取りかかれます。慣れると10秒もいらないくらいです。 音楽や誰かの会話が聞こえている、目の前に好きなスポーツ選手の写真が貼ってあるなど、そういう集中力を阻害する要因をディストラクターというのですが、このテクニックを使うと余計なことに神経がいかなくなってディストラクターの存在を感じなくなるのです。単に黙想するだけだと雑念が浮かんでくる人もいるので、頭上の一点に意識を集中させるためにボールを乗せる想像をするわけです。 今までなかった違う視点が生じて、「これってそういうことだったんだ」とはっとするのは、楽しんでいることと同じなんです。いわゆる「アハ体験」、心が別世界に旅行して急に視界が開けたような、自分の知能が一段と高まったような感じがする。それを導くためにこうしたゲシュタルト崩壊のテクニックが使えます。 これはほぼ誰にでも適用できるので、ちょっとした裏技として先生がたが知っていてもいい、有効な科学的テクニックです。 もう一つ使えるのが、雑談を用いたテクニックです。雑談といっても自分が話したいことを漫然としゃべるのではなく、授業内容とリンクしていることが重要です ここでの雑談は知識と知識のつながりを促しているのですが、知識は単体としてではなく、連結しあってネットワークになったときに初めて「知恵」として全体的に機能します。そのネットワークが綿密であればあるほど、新たな知識がポンと入ってきたとき、すごい勢いで一気につながります。人間は不思議なもので、そのネットワークができて知識がつながった瞬間、快感を覚えるんですよ。 考える時間を楽しむためには、この知識のネットワークがどれだけ脳の中に構築されているかが重要です。雑談のテクニックを駆使して、先生が知のネットワーキングをいかにうまく促すかも、「考えることを楽しむ授業デザイン」につながると考えます。 先ほど紹介したネズミの実験では、学習の初期段階で長く迷ったネズミのほうが、時間のロスがあるにもかかわらず最終的には学習が早いという結果が出ました。 あれはネズミを使った実験ですけど、人間の学習においてもまちがいなく同じ傾向があります。知識のネットワークを構築する時間の重要性は人間も明らかに一緒です。 私も大学生に教えるときは、直近1~2週間の最新の社会ニュースとその日の講義内容を結びつけた雑談をたくさん入れます。「皆さんはあのニュースをこう見ているでしょうけれど、今日授業で習ったことを考え合わせると、見方が変わるでしょう」というふうに、授業ごとに雑談は必ず変えています。 講義の内容と雑談で話すことを毎度リンクさせるのはすごく大変で、かなりの労力を要しますが、学生の理解を深めるためには必要なことなので、毎回時間をかけて入念に準備しています。雑談を用いて知のネットワーキングを促すテクニック

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