「考える時間」を楽しむ授業デザイン教科の視点国語ー 時1362○印象の違いが生まれる理由について、グループごとに特集の視点教科○文学的文章の既習事項を確認する。○文章を読むときに、言葉や描写について注目する理由を考える。○AとBの文章をクラスの半分ずつに配布して黙読する。○AとB、それぞれを読んだ人どうしで集まり、感想を交流する。○もう一方の文章を読んで、全体で感想を交流し、受けた印象の違いを確認する。検討する。○グループで考えたことを交流する。○第1時で行った、言葉や描写について注目する理由を、改めて考える。○本単元の振り返りをする。・白石さんは寂しいと落ち込んでいるが、倉橋君は次へと気持ちを切り替えられていて、逆の性格だと感じた。・「僕」は親の転勤で引っ越すときに、故郷や友達と離れるのがつらかった。けれど、故郷の友達や白石さんに別れは終わりでないことを教えてもらって、ポジティブに考え始めていると思う。 現行版『伝え合う言葉 中学国語1』p.18掲載の『桜蝶』を教材として、「場面の展開や登場人物の相互関係、心情の変化などについて、描写を基に捉えること。」(『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』)をねらいに実践に取り組みました。 本教材の魅力は、作者である田た丸まる雅まさ智とも先生が書いているように「表現や描き方によって、同じアイデアでも作品の見え方が異なってくる」(教育出版・内容解説資料)ことにあると考えました。生徒たちは小学校のときに多くの文学的文章にふれてきています。そのときに、登場人物の相互関係や場面、情景などについて学習しますが、既習事項が生徒にとって実感の伴うものとなるようにする必要があると考えます。そこで、中学校最初の文章である本教材を、表現や描かれ方が異なることから生まれる違いを考え、教材を読み深めるきっかけとするとともに、文学作品をより楽しむための力を育むことができるように活用しようと考えました。 また、「学びナビ」には、「物語や小説といった文学作品では、登場人物がいて、あるできごとが語られますが、同じできごとでも、その描かれ方によって印象が異なってきます。」という説明が書かれています。このような読み方は第2学年の指導事項にある「文章全体と部分との関係に注意」すること、第3学年の「物語の展開の仕方などを捉えること」につながる読み方であると考えました。 そこで教材の魅力と学習の系統性を踏まえて、以下のような計画を立て、授業実践を行いました。 前述したとおり、本教材は同じ場面が異なる表現や描写で描かれていることがいちばんの魅力であると考えました。そこで、まずは一方の作品を読む時間を確保しました。その後、もう一方の作品を読んだ生徒と感想を交流することで、表現や描かれ方の違いや、そこから生まれる印象の差を生徒自身が実感できるように意識して、授業を進めました。各文章を読んだ生徒の感想は以下のとおりです。【Aの文章を読んだ生徒の感想】・桜蝶が移動していったときに、「春とはもうお別れなんだね……。」と寂しい思いにとらわれている白石さんは、どちらかというとネガティブ思考で、葉桜蝶の訪れを喜んでいる倉橋君はどちらかというとポジティブ思考なのではないか。【Bの文章を読んだ生徒の感想】・「僕」は、最初は故郷から離れるのを寂しく思っていた。でも、最後は葉桜蝶が新しい季節を運んできてくれるという前向きな気持ちになった。 感想が出てきた後、もう一方の文章を読むように指示をしました。すると、生徒からは「同じ場面なのに、倉橋君の印象が変わる。」「文章全体の印象が全然違う。」といった声が出てきました。 その後、教師から「その違いはどこから生まれるのだろう。」という課題を投げかけました。違いを考えるうえで、注目していきたい観点については以下のものを提示しました。【違いを考えるための観点】・描写や表現、情景 ・場面(時間や場所)の展開・人物の関係や会話 ・語り手 本教材は教科書の冒頭であり、多くの時間を割くことは難しいと考えます。そこで、先に観点を提示することで生徒たちの思考をより焦点化させるとともに、文学的文章を読むときに生かせる、汎用性のある資質・能力を身につけられるよう留意しました。学習活動教材の魅力と学習の系統性に注目して実践のポイント①生徒から出た感想から学習課題を検討する(1時間め)教材の魅力を活用し、生徒が資質・能力を自覚することができる国語の授業埼玉大学教育学部附属中学校教諭 大おお塚つか 悠ゆう希き国語
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