教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.7 (中学校版)
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「×クロス○○」で新たな可能性を引き出す 「平成30年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」では、「将来の国や地域の担い手として積極的に政策決定に参加したい」「社会をよりよくするため、私は社会における問題の解決に関与したい」などの項目の数値が、日本は7か国中で最低であったとともに、平成25年度調査よりも否定的な回答の割合が増えました。 こうした結果からも、前向きに社会に関わろうとする若者の割合が減っていることがわかります。しかし、生徒を市民へと成長させることが社会科の使命であるとするなら、生徒のネガティブな側面を正そうとするのではなく、生徒の可能性を信じ、市民へと成長する機会を提供することが社会科の授業として望ましいのではないかと考えます。 本稿では、こうした背景を踏まえ、「社会科×○○」として社会科に他教科の教材を掛け合わせることで、教科横断的な学びを実現できる授業を提案します。複雑な問題に対して、他教科との関連とともに人々の思いや営みなどの異なる視点からアプローチすることで、より多面的な問題解決が可能となり、予測不可能な社会を生き抜いていく子どもたちに必要不可欠な学びになると考えました。「社会科×○○」を通して、望ましい未来を切り拓く力を育むことを目ざしていきます。社会❶高橋由一『鮭』 ❷黒田清輝『湖畔』❸クロード・モネ『睡蓮』❹青木繁『海の幸』 ❺山本芳翠『浦島図』教科の視点の視点教科「×美術」で文化学習を楽しく!・暗記の印象をもつ回答(70人中50人) 「覚えることがたくさんある」「暗記することが多くてつまらない」「どの時代にも文化があるのはわかるが、違いがよくわからない」・関心を抱いている回答(70人中20人) 「文化を学習することで、その時代の特徴がわかる」「その時代の人たちがどんなことを考えていたのかが文化とつながっていて面白い」否定的な回答が多くみられた。歴史的背景に着目して回答する生徒もいた。 生徒の回答から、個々の作品や作者に焦点をあてると、生徒の理解は個別的知識の羅列に留まってしまいがちですが、作品を通して文化の共通点を見いだしていくことで、暗記からの脱却へつながるのではないかと考えました。(2)授業の実際〜歴史的分野「明治時代の文化」①導入 絵画を比較することで問いを生む 授業は、2枚の絵画を比較する活動から始めました。1枚は横山大観が描いた『無我』、もう1枚はルノワールが描いた『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』です。その後、黒田清輝が描いた『読書』を題名と作者を伏せて提示しました。以下に、導入場面での実際のやりとりを示します。(T:教員、S:生徒) これらをもとに、「次のうち、日本人が描いた作品はどれだろう?」と問いました。 生徒たちの端末に配布した資料を用いて、生徒一人一人がじっくり絵画の特徴を追究する時間を確保しました。そのうえで、グループワークを通して根拠をもって日本人画家の作品を選べるようにしました。グループワーク後の全体交流では、「洋風な絵も、この時10T 日本人が描いたのはどっちだろう?S 絶対左!(『無我』)T 同じように左だと思った人?S(生徒全員が挙手)T どうしてそう思ったの?S 日本人が描かれているし……。S 和という感じがする。T では、この作品(『読書』)は日本人と外国人、どちらが描いたでしょう?S 絵のタッチが外国人のような気がする……。S でも、モデルにしている人は日本人じゃない?T この絵は日本人が描いたものです。S えっ?T どうして「えっ?」と思ったの?S 初めの作品と印象が全然違うから、おかしいなと思って……。(1)暗記の印象が強い文化の学習 「文化の学習にどのようなイメージをもっていますか?」と第8学年(中学2年)の生徒70人にインタビューを行ったところ、以下の結果となりました。②展開 絵画の仲間分けを通して特徴を探る 展開場面では、新たに以下の5枚の絵画を提示しました。「社会科×○○」でCreativeな学びの実現北海道教育大学附属釧路義務教育学校教諭 澤さわ田だ 康こう介すけ社会

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