教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.7 (中学校版)
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連載デジタル時代の学び 数ある教育論も、実社会で説明がつかなければ、役に立つといえません。そこで、今回は「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」について、常に競争が激しく、発展も著しいラーメン店に例えて考えていきます。 コショーやラー油など、調味料をテーブルに置いていないラーメン店はほとんどありません。それどころか、麺の硬さ、油の量など、客の好みに合わせて味が変えられる、「味変」できるラーメン店が増えています。個別最適なラーメン店といえるでしょう(図1右)。先日は提供後も、味変の注文を受けつけるというラーメン店に遭遇しました。個別最適な対応ぶりに驚かされますが、そのほうが客に望まれているのでしょう。 とはいえ、調味料を置いていないラーメン店もあります。先日、コショーを希望した客がいましたが、店主は「そのまま召しあがってください」と言っていました。客は不満げでした。頑固で一途なラーメン店で、これはこれでよさであると思いますが、まさに一斉指導的なラーメン店といえるでしょう(図1左)。店主の言うとおりに食べなくてはいけない、それ以外の行動は許されない、その結果、客は二度と来ないかもしれません。 教室に話を戻せば、どちらかというと、こういう感じの教室のほうが多いかもしれません。担任の先生のルールに従わなければ、叱られるし、教室にいづらくなる。そして、落ち着かなくなったり、教室から離れたりする子どもも出てきます。22図1 一斉指導的なラーメン店(左)と個別最適なラーメン店(右) 個別最適といわれたときに、教師が全ての子どもに対応し、個別の教材や指示等を用意しなくてはいけないと思うかもしれません。しかし、先のラーメン店の例をみれば、少なくとも調味料等をテーブルに置き、自分の好きなタイミングで、好きなだけ、いつでも味変できるようにしておくことも考えられます。生涯にわたって能動的に学び続ける子どもを育む観点で考えれば、教師が全てを準備することより、自分なりに学べる学習環境を用意し、学び方を指導したほうが望ましい場合も多くあります。そして、保護者から見れば、こうした実社会ではあたりまえの個別最適な対応に慣れている中で、学校の画一的な一斉指導に不満があるかもしれません。 個別最適にすればよいというわけでもありません。例えば、壁で区切られ、一人一人が個別にラーメンに集中できる環境があったとします(図2)。最高度の個別最適です。「最高のラーメンを集中して食べる」がねらいであれば、まちがいがないかもしれないし、こうした環境を好む客もいるでしょう。 そこで、家族でラーメン店に行った時のことを考えてみましょう。ラーメン店に行く大きな目標、大げさもう行かないぞ!俺のやり方に文句あるかコショーくださいそのまま食べてください途中でも味変で楽しもう味濃いめ、油多めで!提供後も変えられますよ!そのままでも好みのタイミングでも、選択して楽しんでもらおう!デジタル時代の学び実社会から理解する個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実東京学芸大学教授 高たか橋はし 純じゅん 博士(工学)。教育学講座に所属。東京都教育委員。独立行政法人教職員支援機構フェロー。日本教育工学協会・会長。教育工学、教育方法学、教育の情報化に関する研究に従事。中央教育審議会教員養成部会臨時委員、中央教育審議会デジタル学習基盤特別委員会委員長代理、同次期ICT環境整備方針の在り方WG主査、文部科学省今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会委員、等を歴任。はじめに個別最適なラーメン店理念や目標の重要性

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