教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.7 (中学校版)
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連載デジタル時代の学び図2 個別最適すぎるラーメン店にいえば理念といえるかもしれませんが、それは「家族で楽しく過ごす」とか「おなかいっぱいになる」などと考えられます。そして家族一人一人が好みのラーメンを頼むのが一般的でしょう。全員が同じラーメンを食べないといけないとしたら、それこそ一斉指導的な家族でしょう。それぞれ好みのラーメンを注文し、味噌ラーメンと醤油ラーメンを分け合って比較したりチャーシューを分け合ったり、協働しながら楽しい家族の時間を過ごしつつ、腹を満たす。一人一人ばらばらに注文するけれど、対話など接点はいくつもあり、理念は満たされていきます。一人で来る時よりも、家族で来て全員が同じラーメンを注文する時よりも、楽しむことができます。ラーメンというものを深く知りながら、腹を満たすことができます(図3)。「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」とは、こうしたことをいうのではないでしょうか。 個別最適も協働もラーメンも手段であり、「家族と楽しく過ごす」といった理念や目標を満たすためにいかに組み合わせるかが重要です。こう考えると、どのラーメンを食べようかと家族で話し合って一つに決めるのは、ゴール設定を誤った話し合い活動になる可能性が高いです。協働的な活動と称して、こうした誤った活動を教室で行っていないか、点検が必要です。教注)もちろん、こういう学習環境を好む子どももいる室には多様な子どもたちがいるのですから、その個性が際立ち、互いに切せっ磋さ琢た磨くまできるようになったときに、いっそうの発展が見込まれます。 こうした考え方は1980年代にも見られました。しかし、やはり実現は難しく、今に至っているのではないかと思います。子ども一人一人の個性を受けとめ、それぞれのタイミングで協働を行うには、紙や黒板では子どもたちの状況の把握すら難しい。ノートを集めて、授業後に朱を入れるのでは、リアルタイム性やスピード感がありません。子ども自身も自分の思いや願いに基づいて、どんどんアウトプットし、それらを教師が受けとめて、一人一人にそのつど助言していく。つまり、やりとりされる学習情報のスピードがどんどん速まっていて、教室でやり取りされる学習情報は指数関数的に増加しているのです。 この実現には、単に子ども一人に一台端末があるだけでは不可能であり、2010年代以降に新しく設計されたクラウドツールが必要です。それはインターネット以前からある、ファイルベースのソフトウェアと考え方も使い方も違います。最新のクラウドツールを活用すると、自然と個別最適で協働的な学びに誘われていきます。さらに最新のクラウドツールの延長上には生成AIも生まれています。 米国の巨大IT企業は、住んでいる国や国籍、働き方も多様な人々を受けとめて、個性豊かな個の力を結集することで、短期間で世界企業になりました。その根本原理は、個別最適と協働といえるでしょう。GIGAスクール構想の基本は、こうしたクラウドツールをフル活用することにあります。個別最適と協働は、教育界だけの話ではないのです。イラスト:永島壮矢23「最高のラーメンを食べる」が目標ならいいけども……「家族と楽しく過ごす」「楽しく腹を満たす」といった理念が重要 (個別最適や協働、ラーメンは手段)図3 「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」の基本的な考え方①家族で別々のラーメンを注文 (個別最適)②感想などを交換しながら食べる (協働)③一人で来るより、家族で来て 全員が同じラーメンを食べるより、 楽しめるし、深く知れる。クラウドをフル活用する

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