教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.7 (中学校版)
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ともにはぐくむ 共育のツボよこやまゆみ29ステップ2 空気を温める 次のステップでは、今のその子を全肯定します。「休んでいるのだから、宿題くらいできるのでは」「怠けているのではないか」といった考えを捨て、その子の話に全神経を傾けて聞くようにしました。表情や言葉、身体表現全てを使って、家での日常の出来事や考えに共感して笑い合うのです。1時間もすると、その子は「先生との間にある温かい空気」のようなものに気づいてくれるのです。そこですかさず「〇〇さんとお話しするのは楽しいな、大好きだな。またお話ししてもいい?」と聞いてみました。「別にいいよ」と言ってくれれば大成功です。ステップ3 努力の向かう先 第3のステップでは、自分は価値のある存在だと実感できるようにします。そのために必要なのは、地道にその子の行動や考えを価値づけていくことです。「しなければならないこと」ではなく「今できていること」「これからやろうとしていること」を言葉にして、その子や保護者に伝えていけば、今まで「登校」に向いていた時間や努力が、好きなことや得意なことを増やすこと、社会と関わりたいと思うこと、それをその子と保護者が喜び合うことへと自然とシフトしていきます。 「今できていること」を実感できれば、いつか必ず「次はこうしてみたいな」という目標が出てくるはずです。また、子どもが変われば大人も変わり、お互いに影響しあって困難を乗り越えていく姿を何度も見ました。私は、決して焦らずに相手をリスペクトしたまま向き合い続けることが“大切”だということを学びました。 その子にとっての「いつか」は、まだずっと先かもしれません。一日も登校しないで卒業するかもしれません。それでも学校に来ることを選ばない子どもが「学校へは行かなかったけど、人と関わるのは嫌いじゃないよ」と思ってくれる未来を目ざしていきたいと思います。発達障害のある子や不登校の子、保護者、教員の力になるために、発達心理学や特別支援教育についての研究を進めている。校種や業界を越えた研修を、各地で行っている。イラスト ©カモ横山 友美東京都江戸川区立第二葛西小学校副校長温かい空気を育てる3ステップステップ1 その子に合ったやりとり 最初のステップでは、気楽にコミュニケーションを取れるようにします。そのために、ふだんのその子をよく知る人物(保護者や友人、前担任など)と話し合い、手紙や電話、家庭訪問、オンラインでのやりとりなど、その子に合った無理のない方法を考えます。そして「たとえ会えなくても、大切に思っていることは変わらないよ」「あなたのことをよく知りたいな」と伝えていきました。自信を失った子どもに、未来への希望をもてるようにはたらきかけることはとても大変です。しかし、どんなに時間がかかったとしても、教育者にとってこれほど重要なことはなく、人間にしかできないことです。どんなにAIが発達しても、これに代わることはできないでしょう。

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