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第2回 3月〜4月上旬


オオイヌノフグリ

フキ

タネツケバナ

ホトケノザ

カタクリ


 
オオイヌノフグリ
  オオイヌノフグリは、春早く、道ばたや土手、畑のまわりなどに、るり色の可愛い花をつけるゴマノハグサ科の越年草です。誰もがこの花の愛らしさに魅了されることでしょう。ところがこの草は、昔から日本に生えていたのではなく、明治初年に外国から侵入してきた植物なのです。原産地は、イランなど西アジアいわれ、ヨーロッパかアメリカを経由して日本に入ってきたと考えられています。
 明治以前の日本は鎖国時代で、外国との交流が制限されていたため、外国の植物が日本に入ってくる機会は、あまりありませんでした。明治時代になって外国との交流がさかんになると、外国産の植物の種子が輸入貨物に付着したり、輸入穀物の中に混入してきたりして、急速に外国の植物が日本に侵入してきました。このような植物を帰化植物といいます。オオイヌノフグリも、帰化植物の一員です。
 帰化植物には、ブタクサとかセイタカアワダチソウとかアレチウリなど、あまり歓迎されない植物が多いのですが、オオイヌノフグリだけは例外で、誰からも可愛がられています。草丈は低く、茎は根ぎわで分枝して横に広がり、数対の鋸歯がある卵円形の葉をつけます。花は葉のわきごとに1個ずつつけ、花の柄の長さが1〜2cmで、白い毛が生えています。
 花は合弁花で、十字状に4つに裂け、上の裂片は幅広く円形で、下の裂片は幅がせまく小形です。花にさわると。全体がすっぽりと抜け落ちます。果 実は偏円形で、やや平たく、中央がくびれて丸い球を2個並べた形になります。その形が犬の陰嚢に似ているところから、イヌノフグリという名がついたのです。この仲間には、茎が直立して花が小さいタチイヌノフグリ、花が淡紅色のイヌノフグリなどがあります。

 
フキ
 フキは、キク科の多年草です。山野の道ばた。田畑の縁、裸地にもよく耐えて、地下茎を横に長くのばして新苗をつくり群生します。早春、葉よりも先に地下茎から、いわゆるフキノトウとよばれる花茎を出します。フキという名も、地表からこの若葉がふき出ることを意味したものなのでしょう。フキノトウは、早春の香りとして、ゆでたり、焼いたり、汁に入れたり、天ぷらにしたりして賞味します。また、民間では、健胃や咳どめの効があるといわれています。
 葉は、花が終わるころに出ます。葉柄は長く多肉で、葉身は円腎形で径30cmくらいになり、縁に不規則な鋸歯があります。この葉柄も醤油で煮て伽羅蕗(きゃらぶき)としたり、また砂糖漬けとして食用にされます。
 フキは、キク科では珍しい雌雄異株で、雄株では、花茎は高さ7〜25cmくらいで、すべて両性花ですが果 実はみのりません。雌株は高さ30〜70cmになり、縁に多数の雌花と中心に少数の両性花をつけ、やがて円柱形の痩果 (そうか)ができ、白色の冠毛をもっていて風で散布されます。
 フキは、北海道から沖縄までと、朝鮮半島、中国にも分布しています。岩手県より北の地方、北海道、千島、樺太には、葉の径が1.5m 、葉柄の長さが2m にもなるアキタブキという大形のフキが生育しています。秋田の名産として、つくだ煮や砂糖漬けにされています。

 
タネツケバナ
 タネツケバナは、アブラナ科の越年草で、草丈が10〜25cmで、地ぎわから羽状複葉の葉をロゼット状に広げ、その中心から花茎を立て、先端に白い小さな十字形花を総状につけます。がく片は暗紫色、花弁は倒卵形で基部がせまくなり、長さ3〜4mmで、がく片の2倍くらいの大きさです。
 果実は、長さ2cm、幅1mmほどの線形で、種子のあるところがふくれています。熟すると果 皮が2片にそりかえって裂け、種子をとばします。春、水田の田植え前には、このタネツケバナが群生し、水田一面 を埋めつくすように生えることがあります。
 タネツケバナという名前は、種漬花で、イネの苗代(なわしろ) を作り種籾(たねもみ) を水に漬ける時期にこの花が咲くのでつけられた名です。昔は、種まきや移植、収穫などの農作業を始める時期を、自然界の植物の開花や動物の渡り、初鳴きなどの自然現象を目安にすることがありました。タネツケバナの開花も、その一つになっていたのでしょう。

 
ホトケノザ
 ホトケノザは、シソ科の越年草で、畑の雑草です。春早く、畑の隅などに群生し、オドリコソウを小さく小さくしたような紅紫色の花をつけた姿は、雑草とは思えないほどの派手な美しさをもっています。冬を越した株は、基部から数本の茎を分かち、高さ15〜25cmほどに育って、それぞれの茎の頂端に花をつけます。
 葉は円形で切れ込みがあり、茎の上部のものは無柄で、両側から茎を抱くように対生して、蓮台(仏の座)のような形となり、そこに花をつけるのでホトケノザという名がついたのです。春の七草の中にも、「ほとけのざ」という草がありますが、これは別 物で、キク科のコオニタビラコのことです。
 花は無柄で、数個輪生し、長さ17〜20mm、花冠は紅紫色で、シソ科特有の唇形花です。花の下部は長く筒状です。なかには、花がのびないで開かずに終わる閉鎖花も多く、それでも自花受粉して種子をつくります。
 アジア大陸の温帯からヨーロッパにかけての農耕地に広く分布し、日本人は、有史以前に農耕文化にともなって帰化したものと考えられています。前川文夫博士は、このような帰化植物を、史前帰化植物とよび、ハコベ、ナズナ、ハハコグサ、タネツケバナ、その他をあげています。

 
カタクリ
 カタクリは、早春の雑木林を彩 る美しいユリ科の多年草です。コナラやクヌギ、イヌシデなどの落葉樹林の樹々の葉がまだ出ない3月下旬頃から、径6cmほどの淡紅紫色の花がうつむいて開きます。花びらは、ユリ科特有の内花被3枚、外花被3枚、合わせて6枚で、先が強くそりかえっています。花被の基部近くに蜜腺があって、その上部にW字状の濃紫色の斑紋があります。
 葉は、花のある株では、ふつう2枚で、褐紫色の斑紋があります。地下には、径1cm内外の細長い白色の鱗茎があり、良質の澱粉を含んでいるため、これからとった片栗粉は、菓子や料理に珍重されてきました。現在、片栗粉と称して売られているものは、ジャガイモの澱粉です。
 関東地方では、4月も下旬になると、雑木林もすっかり葉を広げて、カタクリは日陰になって光合成ができなくなり、5月には、葉にできた栄養分を地下に送り、葉は透明になって、やがてとろけるように消えてしまいます。カタクリの地上部の生活期間は、わずか4週間程度で、この短期間に効率のよい光合成を行うのです。
 カタクリの生育環境は落葉樹林で、しかも林床にササなどが繁茂しない場所です。このような環境は、人間がかって木炭や薪を生産した里山とよばれる雑木林です。このような雑木林も、木炭や薪の需要が減ってしまったために少なくなって、カタクリの生育場所もせばめられ、今では貴重な植物になってしまいました。
 カタクリは、万葉の昔から「かたかご」という名で、人々に親しまれていました。

  もののふの八十少女(やそおとめ)らが汲みまがふ
          寺井の上の堅香子(かたかご)の花
                大伴家持(万葉集巻十九)



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